OCIでしか動かなかったHeatWaveがAWSでも動く
パブリッククラウドベンダーは、質が良く価格競争力の高いIaaSはもちろん、自社独自技術を投入したPaaSなどで優位性を発揮し、顧客から選択してもらえるよう務めている。またもう1つのアプローチとして、ISV(Independent Software Vendor)のソフトウェアを積極的にリクルートして自社クラウドサービス上で動かせるようにもしている。これは、オンプレミスと同じソフトウェアが使えれば顧客のクラウド移行を促すことができ、またさまざまなソフトウェアが利用できることで顧客の選択肢を拡げるメリットも生まれるからだ。
2022年9月13日、OracleはMySQL HeatWave on AWSを発表した。MySQL HeatWaveは、MySQLにデータ分析のための高速エンジンをプラスしたサービスで、これまではOracle Cloud Infrastructureでだけ利用可能なものだった。2020年12月から提供されており、その後も運用の自動化で管理者負荷を軽減するMySQL Autopilotや機械学習用のHeatWave MLなどの機能を追加し、順次拡張を行っている。
HeatWaveはOracle Cloudの東京、大阪のリージョンで利用でき、顧客の許にOracle Cloud環境を丸ごと置く「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」でも利用可能だ。継続的にサービスは進化しており、最低2ノード構成からの利用だったものがより小さい1ノードからでも使えるなど細かい拡張も行われている。既に国内事例もあり、たとえばトヨタ自動車では機械学習用のデータの前処理でHeatWaveを利用している。
MySQL HeatWaveはOracle Cloudに特有のサービスであり、MySQLで高速なデータ分析が安価に実現でき、HeatWaveの存在が顧客のOracle Cloud選択の理由となったケースもあっただろう。既にオンプレミスでMySQLを運用し大量なトランザクションデータがあれば、発生する大量のデータをETLなどで分析用データベースに渡してレポーティングや分析を行っているだろう。そのような場合にMySQL HeatWaveでクラウド化すればトランザクションと分析の2つの処理を両立できる。これはMySQLユーザーのOracle Cloud移行の推進に貢献したはずだ。
Oracle Cloudはパブリッククラウドとして後発で、先行するAWSやMicrosoft Azure、Google Cloudとの市場シェアには大きな差がある。追う立場のOracle Cloudでは、新サービス発表などではCTOのラリー・エリソン氏自らが、再三に亘りトップを走るAWSを引き合いに出し性能や価格を比較し優位性があることを強調するのが常だった。これは、かなりの対抗心が垣間見えるものだった。
一方でOracleは、データベースなどのミドルウェアや各種アプリケーションを提供する、市場で最も大きなISVでもある。AWSからすればOracleのソフトウェア製品が自社クラウドできちんと動くことは、顧客の選択肢を増やすことにつながるだろう。実際、マネージドサービスとしてAmazon RDS for Oracleも提供している。
もともとOracleも、製品がオープンであることを表明しており、これまでも自社製品があらゆるプラットフォームで動くようにしてきた。現状でもOracle DatabaseはLinux、Oracle Solaris、Microsoft Windows、HP-UX、IBM AIXのOSに対応している。今回はISVを歓迎するAWSと幅広いプラットフォームで製品を動かしたいOracleの双方の思惑が一致し、長年Oracleとしては目の敵にしてきたAWSへの態度を軟化させMySQL HeatWaveをAWSで動かすことに決めたのだろうか。