営業活動でのデータ活用を阻害する顧客マスタの問題
さらにもう一歩踏み込んで、個社データを可視化した詳細なビューもABMダッシュボード上では見ることができる。前述した浅葉建設の例では、提案の規模やステータスに加えて、同社執行役員と過去に名刺交換をしたのは誰か、これまでの契約状況などの情報もわかる。同様のダッシュボードがない場合は、データが格納されているSFAなどのツール側から状況を確認しなくてはならないが、データを集約した環境があれば、そこから示唆を得て、提案の質や受注確度を高められるようになる。その結果、業務効率化に加えて適切なアプローチが可能になり、営業生産性の向上を実現できるとSansanはみている。
Sansanのような顧客データ活用を実践している企業はまだ少ない。と言うのも、各種ツールを導入して収益増大に取り組んではいるものの、顧客データの品質に問題を抱えているためだ。Sansanが独自に調査した結果からも、約9割の企業が同様の問題を抱えているとわかっている。顧客データ活用の問題を解決するための第一歩となるのが、ターゲット企業に紐づく人物の「顧客マスタの整備」と中西氏は語る。
顧客マスタが整備されていない場合、大きく3つの問題がある。まず、1つはデータの不足である。たとえば、ターゲット企業の名前はわかっているが、一部に業種や従業員規模のデータの欠損がある場合、どんな分野の受注が増えているのか、あるいは失注が増えているのかを分析したいのに、正しい結果を得られない。2つ目はデータが古いこと、あるいは誤りがあることだ。たとえば、キーパーソンの昇進はアプローチ時の重要なポイントになるが、その事実を把握できていなければ、その人物との過去のつながりを活かすことができない。最後、3つ目がデータの重複である。たとえば、同一人物であるにもかかわらず、Sansanの山田さんのレコードが2つあるような場合、そのターゲット企業の理解が一面的になる他、重要なデータの見落としが出てくる。これら3つの問題を放置している限り、収益の増大を実現することは困難だろう。
Sansanが訴える法人営業で整備するべき顧客マスタとは、ターゲット企業に対してどんな提案をするべきか、その示唆を提供する仕組みである。この中のデータは、提案時に使った営業資料が、実際の契約という成果に結び付いたかを検証する場合にも使う。その意味で、顧客マスタは営業戦略の立案から実行段階も含めたPDCAサイクルを支えるものと言える。
顧客マスタを構成する「企業情報」と「接点情報」の2種類のデータ
法人営業における顧客データ活用にともなう問題を解決するのがSansanである。Sansanと聞くと、名刺管理の会社というイメージが強いかもしれないが、中西氏は「コロナ禍における働き方の変化を考慮し、2022年は大きな製品アップデートを実施した」と話す。現在は、企業が営業DXを実現するためのソリューションを提供するサービスにポジショニングを変えたのだと言う。今のSansanは「企業情報」と「接点情報」の大きく2種類のデータを組み合わせ、営業を強くするデータベースを提供している。
企業情報では、事業概要、業種、売上、従業員数の他、その会社の役職者のデータや人事異動のデータ、さらには反社会的勢力ではないことを示すリスクデータなどを、名刺交換の有無に限らずSansan上で確認することができる。また、接点情報は、名刺交換ができていない人物のデータもデータベースに組み込んでいる。具体的には、コロナ禍で対面での名刺交換の機会がなくなったことを踏まえ、最新テクノロジーを用いてメール署名から自動で登録できるようにしている。この他、メールや電話のやり取り、Webフォームからの問い合せ内容、過去の商談内容も合わせて、接点情報としてデータベースに格納する。
さらに、こうした最新のSansanの「営業を強くするデータベース」としての価値を一層高める機能が『Sansan Data Hub』だ。Sansan Data Hubとは、SalesforceやMarketoといったCRM・SFA・MAツール上にあるデータの名寄せとリッチ化を実現する機能である。
Sansan Data Hubがどんな処理をしているのか、中西氏は複数の例を挙げて説明した。たとえば、企業合併や社名変更があった場合、古い名刺のデータでも新旧の判定を行い、最新の社名でデータに名寄せを行う。また、同じ人物のデータが複数ある場合も、企業名と同様に最新のものに反映する。これらの名寄せの処理は半自動で行われる。さらに、帝国データバンクの企業情報のような外部データとの連携で顧客マスタの拡張も可能だ。先の例に出たSansan独自の6段階の役職レンジの他、部署の名称も33分類で整理しており、分析の切り口になるデータ分類機能を提供している。その分析結果は、テーマを絞り込んだセミナーの集客などに役立ちそうだ。各種ツールの顧客マスタを常に最新かつ正確な状態で維持することで、データが増え続ける中でも営業生産性の向上を実現できる。