日本のDXの遅れが指摘される中、IT業界への厳しい意見が目立つ。「従来型の開発」「外部への丸投げ」「多重下請と労働集約」……などだ。しかし、こうした問題にシステム開発の現場で取り組んでいるはずのSIerからは、なかなか生の意見は聞こえてこない。そんな中で「モノ言うSIer」として稀有な存在が、現SCSK 顧問の室脇慶彦氏だ。『SIerの進む道』、『IT負債』などの著作があるSI業界の第一人者に話を聞いた。
業績は好調だがリミットは間近、ラン・ザ・ビジネスからの脱却を

「今のSI業界が安泰なのは、せいぜいあと5年。うまくやっているように見えるのは『既存システムのお守り』をしているから。いわば『タコが自分の足を食べている状態』なのです」
こう語るのは、SCSK顧問の室脇慶彦氏。野村総合研究所(NRI)で40年間、SIビジネスを勤め上げ、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)にも参与として携わった。政府のDXプロジェクトにも参加するなど、近年は『SI企業の進む道』、『IT負債』(ともに日経BP)などの著者を通じて、SIと日本のIT業界への提言を積極的に行ってきた。ユーザー企業との守秘契約などの関係から、裏方気質が多い中で、「モノ言うSIer」として稀有な存在だ。(本稿では、日本のSI企業の特性を踏まえてSIerという和製英語にする)
上記の言葉は、SIerが近年は業績が堅調なことから「SIビジネスの当面の市場環境は安泰では?」という筆者の疑問に応え、「そんなことはない」ときっぱりと断言した時のものだ。
「JUASの調査によると日本企業のIT関連費用の約8割がラン・ザ・ビジネス(run the business:既存ビジネスの維持や管理)で、残りの2割についても、大部分が追加修正費用です。ユーザー企業のIT費用の大半が、既存ITシステムの維持に使われているのです。これでは、デジタル技術の活用をするためのコストは大変大きくなり、ユーザー企業の競争力はどんどん弱くなります。SIerの継続的な収入は安定しているので、今は業績も安泰かもしれません。しかし、ユーザー企業がITに疎いまま、DXどころかIT戦略も打ち出せなければ、グローバルな競争に打ち勝っていくことは困難です。そうなるとSIerの業績も下降することは明らかで、ユーザー企業と共連れの凋落となります」(室脇氏)
経済産業省が「2025年の崖」を打ち出したDXレポートからも既に数年が経過している。ラン・ザ・ビジネスはSIerの利益の源泉であるが、ユーザー企業を守るためには、既存ITシステムの改革や共通化による刷新を進めることが急務だと室脇氏は言う。
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伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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