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「KADOKAWAグループをデータドリブンに」内製化×アジャイル思考でサイロ壊す、CDO塚本圭一郎氏

KADOKAWA Connectedをハブとした「データ活用」による企業文化の融合とDX

 デジタル変革(DX)を推進するKADOKAWAグループ。出版や映像、ゲーム、Webサービスなど、異なる文化を持つ組織をエンジニアリングでつなげようとしているのがKADOKAWA Connected。KADOKAWAとドワンゴからデジタル人材を集め、2019年に誕生した企業だ。同社でデータ活用の推進役を担っているChief Data Officer(CDO)の塚本圭一郎氏に、KADOKAWAグループが抱える課題や取り組みの成果、将来像などを聞いた。

KADOKAWAグループのデータ基盤整備が進行中

──塚本さんは、KADOKAWAグループのDX組織でもあるKADOKAWA Connectedにおいて、CDOとIntegrated Data Service部長を兼任されていますね。具体的にどのような役割を担われているのでしょうか。

  一言でいえば、KADOKAWAグループ全体の「データ利活用」をデータマネジメントの観点からリードしています。データマネジメント自体は、『DMBOK』(Data Management Body of Knowledge)というフレームワークとして、その知識体系がまとめられていますが、具体的にはデータ基盤の構築・運用、データのモデリング、メタデータの管理、個人情報保護などを主導しています。たとえば、グループ内でマーケティングなどにデータを活用したい事業部門があれば、そこで安定した運用ができる基盤システムやデータを作っていくことが主な役割ですね。

  CDOに就任する前は、ドワンゴでビッグデータ分析部門に在籍しており、「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」を企画するニコニコ事業に係る、ビッグデータ分析基盤の構築運用を担当していました。当時、企業におけるデータ資産を適切に管理して扱う役割である“データスチュワードシップ”が必要とされていることを知り、ニコニコサービスの本部長に上申してデータスチュワードのような活動をしていました。そうした活動の知見をKADOKAWAグループにも活かしてほしいとお声がけいただき、2019年4月にKADOKAWA Connectedに出向、2021年3月に同社CDOに着任したのです。

 KADOKAWAにはDXを推進するDX戦略アーキテクト局という部署があり、同部が管掌している企業がKADOKAWA Connectedです。そのため、私は子会社のCDOではありますが、KADOKAWAグループ全体のデータマネジメントを期待される立ち位置でもあります。そして、KADOKAWAグループの中期計画においては、成長基盤の強化のため、“グループデータの統合”によるマーケティングへの活用が必要とされています。だからこそ、CDOとして、データをサイロ化させずに事業横断で活用できるように整備を進めています。

──KADOKAWAグループのデータマネジメント、データ活用に取り組まれているのですね。具体的には、どのような課題があるのでしょうか。

 CDOとしてグループ全体を見たときに、企業文化の違いが見受けられますね。たとえば、ドワンゴには内製エンジニアがいるため、データ基盤にデータを受け入れる際にもSlack上で会話するだけで作業を完結できます。また、デジタルやテクノロジーに関するリテラシーが高い人が多い傾向にあり、BIツールやSQLによるビッグデータ分析なども私達のサポートがなくとも自走できる方が多いです。一方、KADOKAWAには内製エンジニアが少なく、外注している領域も少なくないため、データの受け入れをSlackで完結することが難しかったり、BIツールやSQLの学習についても、しっかりとサポートする必要があったりと違いを感じますね。だからこそ、CDOとして親身に伴走していく必要があると考えています。

KADOKAWA connected CDO(Chief Data Officer)塚本圭一郎氏
KADOKAWA Connected CDO(Chief Data Officer)塚本圭一郎氏

 Integrated Data Service部は、ドワンゴにいたニコニコ事業におけるビッグデータ分析基盤の構築運用に携わる内製エンジニアが集まって組織されました。そうした背景もあり、当初はKADOKAWAグループに対して親身な伴走が上手くできない体制でしたが、コンサルタントやアナリストの中途採用を通して内製エンジニアだけでは難しかった伴走ができる体制を作るとともに、以前はシステム開発・運用について各部署が外注していたところを社内エンジニアの力で内製化するなど、グループで技術的な統制をとれる組織体制にシフトしています

 内製化前は、外注していたシステムの仕様書などドキュメントが足りなかったり古くなっていたりして、データの所在がわからないという課題も浮き彫りになりました。そこで直近の取り組みとして、どこにどのようなデータがあるのか、どのようにデータを抽出して集計すべきかなど、メタデータ(データカタログ)管理の一元化を推進しています。

 また、ニコニコ事業におけるデータ分析基盤をグループ向けに更改したタイミングで、データ基盤をオンプレミスからSnowflakeへと刷新しました。1つの事業に対して提供する場合と違い、グループ全体の成長スピードが一定ではないためスケーラビリティがあり、かつ予算管理もしやすいアーキテクチャ構築を目指してSnowflakeを選定しました。データの共有自体も容易になったため、将来的にはKADOKAWAグループのみならず、グループ外の出版社などに対してもサービスを柔軟に提供できればと思っています

「データマネジメント」を起点にグループ課題解決へ

──データの整備を進める上で、「データガバナンス」や「データマネジメント」という観点も欠かせませんね。

 おっしゃる通り、データガバナンスは直接的に売り上げやコストダウンに結びつきませんが、個人情報保護法や改正電子帳簿保存法などを遵守するためにも必ず取り組まなければなりません。基本的には『DMBOK』を参照しながら、KADOKAWAグループでの課題と照らし合わせて取り組んでおり、ドキュメントの整理に係るデータカタログの整備においてはツールを活用することで負担を軽減しようと考えています。とはいえ、そのためには前述したようにデータの整理が必要なため、ツールの導入と並行して内容を調査している状況です。ただ、全量調査には膨大な工数が必要になってしまうため、特に、マーケティング施策を打つために必要な要素などをヒアリングしながら、優先度の高いものから徐々に明らかにしていく予定です。

 また、重要視しているのがデータ分析の内製化(民主化)です。KADOKAWAグループに所属する企業ごとに多くの事業ドメインがあるため、それらの知識を活かして適切なデータ分析が行われるように、なるべくデータ分析を行う企業や部門の方が自ら分析できるよう働きかけています。たとえば、親会社のKADOKAWAにはデータ活用推進という部署があり、そこでKADOKAWAのドメイン知識をよく知るD&Aトランスレーターが社内ニーズを取りまとめ、KADOKAWA Connectedが実行するなど役割分担をしています。こうしてデータ活用をしたい企業に属する部署に間を取りもってもらうことで、ドワンゴ出身の担当者が「KADOKAWAの文化がわからない」などニーズを正確に把握できないときにでも問題が生じないような仕組みにしているのです。

──データ活用文化の醸成には、社内理解が重要なのですね。

 その通りで、これはグループ全体でも同じことが言えると思います。私はKADOKAWA Connectedに所属しながらも、KADOKAWAやドワンゴにも在籍しています。完全に子会社の立場になってしまうと、グループ各社の温度感がわからなくなるからです。グループ全体のデータ活用を推進するCDOとして、各社の会議や進捗報告の場に参加し、組織をまたいだコミュニケーションを取るように心がけていますね。こうすることで「KADOKAWAグループのデータ活用は塚本に相談すればいい」と意識が醸成され、グループ間でのサイロ化を抑制できています。一方で、依頼が集中するようにもなってきており、データ基盤やBI、人材育成など役割に応じた適切な権限委譲の在り方も模索していますね。

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多様な事業ドメインの理解で、知的財産の利用を最大化していく

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)

1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。

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