維持すべき顧客と離れてもいい顧客の見極め方、ポイントプログラムの問題点などを論じ、リテンション政策の今日的課題について根来龍之氏が解説する。
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現在、多くの企業で顧客との良好な関係を維持するために、企業の顧客情報活用や分析が重視されてきている。その中心にあるのがリテンション、つまり顧客維持のための政策だ。ただ、消費者の情報入手、発信手段が急拡大していることなどを背景に、企業のリテンション政策には様々な課題が浮上している。そこで維持すべき顧客と離れてもいい顧客の見極め方、ポイントプログラムの問題点などを論じ、リテンション政策の今日的課題について考察する。
顧客維持活動の本質
CRM(Customer Relationship Management)を定義する一般的なキーワードは「顧客情報の一元管理と共有」だ。CRMを顧客満足活動と同一視する傾向があるが、CRMはそのための手段の1 つと位置づけるべきだと言える。
顧客とかかわる部門は営業や企画、サービス、開発など様々あるが、直接・間接を問わず、すべての部門が顧客情報にアクセスできる環境を作くっていくのがCRM活動である。顧客との接点は受注時、問い合わせや要望、クレームなど様々だが、その情報を顧客別に一元化して管理し、顧客満足と顧客維持につなげていくのだ。
CRMの起源は、マーケットシェアよりも、個別の消費者におけるシェア(個客シェア)に注目することにある。そこで基本となるのがリテンション、つまり顧客維持のための政策である。一人の顧客から得られる利益額は、購買回数や年数を経るにつれて上がっていく。初回(初年度)は新規顧客獲得コストがあるのでマイナスだが、その後に顧客維持に成功すれば黒字になる。つまり顧客である期間が長いほうが、利益率が高くなるのが普通である。その理由には、以下のようなものがある。
まず、リテンションを繰り返すうちに、顧客は価格に敏感ではなくなっていく。そのため割引やキャンペーンを実施しないで済んだり、単価が高い商品にシフトしたりして、価格プレミアムが生まれる。またアフターサービスの経費も低下していく。さらに長い顧客は新しい客を紹介(推薦)してくれる性質があり、その利益も大きい。だからリテンションが重要、というのがCRM の古典的な理論なのである(図1)。
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根来 龍之(ネゴロ タツユキ)
早稲田大学IT戦略研究所所長、同大学大学院商学研究科(ビジネススクール)教授、経営情報学会会長。京都大学卒業(社会学専攻)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員などを経て、2001年から現職。主な著書に『代替品の戦略』(東洋経済新報社)、『mixiと第2...
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