事業変革を起こすために必要な“4つの原動力”
ENEOSは親会社のENEOSホールディングスと一体運営をしており、国内燃料油シェアは約50%を占め、石油化学製品や電力事業も展開している。昨今のロシアのウクライナ侵攻をはじめとした地政学リスクやカーボンニュートラルの実現に対する社会的要請の高まりを受け、2040年に向けて「ENEOSグループは『エネルギー・素材の安定供給』と『カーボンニュートラル社会の実現』との両立に向け挑戦します」という長期ビジョンを掲げている。
主力である石油精製販売を基軸としつつも、再生エネルギー、水素エネルギー、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:CO2回収・貯留)、バイオ燃料などへのエネルギートランジションを加速させるには、経営基盤の強化が必須。椎名氏はそのためには「DXが欠かせない」と話す。
ENEOSが考えるDXとは「『抜本的な業務改善や新たなビジネスモデル創出』をデジタル技術を活用して実現すること」だと定義する。つまり、DXはツールであって目的ではない。同社がDXを通じて実現したい事業変革は大きく3つある。基盤事業の徹底的な最適化に取り組む「ENEOS-DX Core」、成長事業の創出と収益拡大を目指す「ENEOS-DX Next」、そしてエネルギートランジション実現を加速させるための「カーボンニュートラルに向けたDX」だ。
また、これらDX推進のために強化すべき原動力として「デジタル人材育成」「データ活用」「ITガバナンス」「共創機会」の4つを挙げた。このうちENEOSが最も重要と考えているのがデジタル人材育成だ。
実はENEOSでは、既に2020年度から予算を充て、各部門に任せる形でDXの推進に取り組んできた。しかし、2021年度末時点で成功事例と呼べるものはほぼなかったという。
原因解明のために、全社員アンケートや投資案件に対するモニタリングを実施。その結果から、「DXに取り組む時間がない・人がいない」「DX関係の資格保持者が、DXに取り組む機会が無い」「QCDに問題を抱えた案件が多い」といった具体的な課題が見えてきた。
そこで、DX重点テーマを選定してプロジェクト化し、限られたリソースを集中させるとともに、外部人材も招へい。さらに各部門に任せきりにせず、定期的な状況確認などコミュニケーションを強化した。それでもなお「何のためにこのDXを行うのか目的が曖昧」「IT部門は関与不足、事業部門はベンダー依存」「プロジェクトの進め方がわからない上司に盲従」といった課題があった。椎名氏は「これはDXのスキル不足だけではなく、組織風土も要因になっているだろうと思いました」と振り返る。