パッケージからクラウドへの移行 顧客と自社双方にメリットあり
1987年の「青色申告会計 弥生」の発売以来、スモールビジネスのバックオフィス業務を支えてきた弥生。パッケージソフトでは25年にわたり、クラウドサービスでも2014年の提供開始以来、個人事業主や中小・中堅向けのクラウド会計ソフトとして高いシェアを獲得してきた。そして2023年に発表した新ブランド「弥生 Next」でクラウドシフトを一段と進める。
パッケージソフトから決別するわけではないが「クラウド化は必然」と語るのは、2024年から同社でダイレクト・セールス&マーケティング本部の本部長を務めている土肥氏。Boxやドキュサインなど欧米のテクノロジーベンチャーにおいて、日本でのビジネス立ち上げに関わってきた経験を持つ人物だ。
「クラウドへの移行は顧客のニーズに応えた自然な流れであり、エントリーのしやすさ、始めやすさ、アップデートの容易さが背景にあります。インストールタイプのソフトウェアにはクラウド連携機能を持たせていますが、今後はブラウザベースでの提供が主流になっていくでしょう。また、サブスクリプションモデルによる収益の安定化により、顧客サービスの向上にもつなげられます」
中小企業で高まる“データの活用” 「ポストERP」構想で応える
「弥生 Next」の新ブランド戦略は、競合製品を含めたクラウド移行に対する動きとみてとれる。しかし、弥生が注視しているのは競合他社よりも“顧客の要望”だという。
「弥生は約40年前から事業を行っており、多くの顧客を抱えています。これまでも顧客からの要望やニーズにあわせて対応してきましたが、競合他社と言われる“会計のSaaSベンダー”との大きな違いはスモールビジネスや個人事業主にしっかりとフォーカスを当ててきたことです。現在、そうしたお客様は会計データをどう経営に活かすか、データを分析して活用するといったERPのような発想と機能を求めています。とはいえ、エンタープライズ向けのような統合型ERPを開発するという発想はありません」
弥生の顧客規模を見ると数千人以上の組織は少なく、小規模事業者から数百人単位が大半を占める。近年、中小企業から「データドリブン経営」のニーズが高まっており、顧客からは経理・財務機能だけでなく、蓄積したデータの活用など、分析面の強化を望む声が多く聞かれるという。1987年から時代は移り変わり、学生時代からパソコンやスマートフォンなどに触れた人たちが中堅社員になった今、慣れ親しんだテクノロジーを仕事にも活かしたいと考えている。ChatGPTのようなAI技術も広く普及し、誰もが簡単に利用できるようになった現在、新たな技術や考え方を企業活動に取り入れることは自然な流れだろう。
「そこで我々は『弥生 Next』によって、ERPの概念を再定義しようとしています。重厚長大な統合型ERPとは異なり、自社に最適なシステムだけを構築できるような考え方です」
「弥生 Next」が掲げる“ポストERP”構想は、ヒト・モノ・カネなどの経営リソースを最適化するERPの基本的な考え方を踏襲しながら、特にスモールビジネスに特化した形での提供を目指す。そこでまず注力するのが、弥生が得意とする「会計・給与・商取引」の領域だ。ここに他製品とのデータ連携を加えることで、ERPとしてのデータドリブンな意思決定を促進していく。
2024年3月時点では、給与領域の「弥生給与 Next」と「やよいの給与明細 Next」が既にSaaSとして提供されている。残る会計と商取引領域については、2024年にリリース予定だ。
土肥氏は「既にリリースしている『弥生給与 Next』は当初目標を上回る売れ行きで、顧客からも好意的な反応が得られています。乗り換え需要もある一方、新たな顧客を多く獲得できていますね」と自信を見せる。特に会計士や税理士、社労士に依存している年末調整業務などをデジタル化あるいは内製化したいというニーズに応えられていると話す。