外部パートナーも利用できる“協創”の土台
──塩野義製薬は2030年までにHaaS企業へと変革することを掲げた中期経営計画「STS2023」を2020年に策定して以来、様々な施策を進めていると伺っています。このHaaS企業への変革とは具体的にどんなことを意味するのかを教えていただけるでしょうか。
西村亮平氏(以下、西村氏):塩野義製薬はこれまで医療用医薬品を中心に提供する「創薬型製薬企業」として事業を展開してきました。しかしパンデミック以降、世界の医療のあり方や人々の医療に対する意識は大きく変わってきており、ヘルスケア産業を取り巻く外部要因も急速に変化しています。
そうした変化に応じて、当社も医療用医薬品の提供だけでなく、様々な角度から人々の健康に寄与するヘルスケアサービスを提供する「HaaS企業」へと進化することを宣言しています。既に新型コロナウイルス感染症治療薬やワクチンの開発、下水疫学サービスの開始など、今までとは異なるサービスの提供に取り組んでいますが、人々や社会がヘルスケアに対して抱える課題をより包括的に解決できるよう、新たな価値を創造していきたいと考えています。
しかし、これまでやっていなかったことに取り組むには様々な変革が必要になります。HaaS企業への変革とは「今まで提供できていなかった価値を提供する、物理的な医薬品だけでなくヘルスケアサービスも提供していく企業になる」ことであり、その実現を支援するITもこれまでとは異なる価値を提供しなければいけないことを意味しています。
那須真良樹氏(以下、那須氏):具体的にはレガシーなサーバー群をハイブリッドクラウド化するなど、様々なサービスを迅速に提供できるインフラを整えることがITフロンティアグループのミッションとなります。これから始まる新しいサービス提供にあたって、そのベースとなるITインフラを整えていかなくてはなりません。
しかし、新しい価値やサービスを提供していくためには、我々の力だけではできません。外部パートナーも利用できる“協創”の土台が必要です。それを整備するのにあたり、どんな課題があるのかを整理しています。最終的にはゼロトラスト環境を構築していくことになりますが、まだ動き出したばかり。当社が掲げるビジョンを実現するにあたっての下準備を行っている段階ですね。
──ITフロンティアグループはそもそもどんな業務を担当する部署なのでしょうか。
西村氏:ITフロンティアグループでは全社的なインフラの選定や構築を担当しています。研究開発に必要なアプリケーション開発は別の部署が担当していますが、従業員が業務で利用するアプリケーションやシステム、たとえば「Microsoft SharePoint」などワークプレイス環境に関しては我々が提供しています。
導入前のアプリケーションのレビューなどもやっていて、最近だとChatGPTを社内で安全に使うための環境も構築し、提供しました。HaaS企業に向けた準備として、協創できそうな社外のベンチャー企業の情報を収集することもやっています。
那須氏:ネットワークセキュリティ製品の選定や導入もITフロンティアグループが担当しています。IT&デジタルソリューション部の配下には「ITガバナンスユニット」という別ユニットがあり、そこには「サイバーセキュリティグループ」が含まれているのですが、彼らは我々が導入した製品やサービスが安定的に運用されるよう、ガバナンスを利かせる役割を担っています。
ITフロンティアグループの仕事は一般的な企業における情シスとほぼ同じですが、どちらかというと企画(製品選定)や導入推進など「攻めのIT」の領域で、運用や品質保証など「守りのIT」をサイバーセキュリティグループが担当しているイメージですね。
西村氏:もちろん協力体制は常にとっています。同じ会社の組織である以上、利益相反した状態で製品導入や運用をお互いに放置するようなことがないよう、お互いがやりたいこと、やるべきことはきちんとすり合わせた上で進めていくことが重要です。
──ITフロンティアグループはお二人を含めて何名が所属しているのでしょうか。
西村氏:マネージャーの私を含めて8名ほどです。かなり大変なため、運用パートナーとして日立医薬情報ソリューションズとアクセンチュアに協力してもらっています。パートナーに委託する業務を選定し、全体的な整合性を判断するのも我々の仕事に含まれます。