DXの“土台づくり”に奔走 セキュリティ強化も同時進行
酒井真弓(以下、酒井):DX推進課の役割を教えてください。
羽咋有果(以下、羽咋):DX推進課は、2022年4月にもともと情報システム室の1部署だったのを、2課体制になったことで新設された課です。基幹システムの開発・保守運用する部隊が「情報システム課」となり、DX推進課では主にサーバーやネットワーク、PCなどの機器管理、ヘルプデスク、各種アプリケーションやグループウェア、業務システムの運営・保守などを担当。情報システム室時代に担っていた役割からそんなに大きく変わっていません。そこに新たに、社内のDX推進に向けた企画・提案なども少しずつ行うようになっています。正直なところ、「DX推進課」という名前は実態より部署名が一歩先を行っている感じがして、最初は少し抵抗がありました(笑)。
2024年度は社内の体制も整ってきて、全社の業務改善をグループ経営企画部がリードすることになり、DX推進課はシステム面をサポートしていく予定です。
酒井:たしかに「DX推進」と聞くと、“新たなテクノロジーを活用してビジネス価値を創出する”みたいなイメージがありますね。でも、データ活用やクラウド移行など、DXを本格化しようとする企業ほど、レガシーシステムの制約に悩まされてしまうもの。基幹システムをはじめとする「モード1」を整備しつつ、DXに向けての準備段階なのかなという印象を持っていますが、いかがでしょうか。
羽咋:土台のないところに何を載せてもうまく動きません。既存のIT運用を着実に継続することが、DXを進めていくにあたっても非常に重要だと思っています。
近年、特に力を入れているセキュリティの強化もその一環です。当社では以前から、全国の拠点や工場、研究所が同じネットワーク内で、統一のセキュリティ下で運用していました。そこにクラウド環境が加わり、さらにコロナ禍で、全社的に在宅勤務やリモートワークもできるように整備しました。そうなると、既存のセキュリティ対策では不安な部分が出てきます。そこでまずはXDR(Extended Detection and Response)に着手。次に、場所を問わず安全なインターネットアクセスを確保するため、「Cisco Umbrella」を導入するに至りました。
酒井:なぜ、Cisco Umbrellaを選んだのでしょうか。
羽咋:SASE(Secure Access Service Edge)と呼ばれる考え方を導入する際、選択肢の一つとして挙がったのが、Cisco Umbrellaでした。新しい働き方に合わせてネットワーク環境を刷新するとなると、膨大な時間と労力、コストがかかります。その点、Cisco Umbrellaはクラウドベースのサービスとして提供されているので、既存の環境にオーバーレイする形で比較的簡単に導入できます。加えて、ユーザーがどこにいても関係なく、一貫したセキュリティポリシーを適用できるので、運用負荷も下げられる。既存のネットワークインフラを生かしながらセキュリティを強化していこうとしている私たちにとって、最適解だと判断しました。
酒井:セキュリティの情報収集はどのように行っているのでしょう。
羽咋:導入事例やソリューション関連のニュースは、Webの記事や雑誌を読んで勉強しています。協力ベンダーの営業担当者にも「こういう情報あったらください」とお願いし、効率よく情報収集ができるようにしています。
コロナ禍で増えたオンラインセミナーもよく活用しています。リアルのセミナーや勉強会が主流だった頃は、「この日に半日不在にするのは難しいな……」と、参加を諦めざるを得ないことも多かったのです。限られた業務時間の中でも都合が合えば受講できるオンラインセミナーは、本当にありがたいですね。
ITリテラシー向上のポイントは「直感的」と「解放」
酒井:DXを進めていく上で欠かせないのが、社員のITリテラシー向上です。エバラ食品では、どのような取り組みをされているのでしょうか。
羽咋:社内にはパソコン操作に戸惑う人もたくさんいらっしゃいます。クラウドの概念も、なかなか理解してもらえませんでした。データの同期についても、「こっちのファイルを消したら、なぜあっちも消えるの?」といったような疑問を持つ人も少なくないのが実情です。ですから、コロナ禍で急遽テレワークをせざるを得なくなったときには、皆さんに少しでも早くWeb会議やチャットに慣れてもらうことに最も力を入れました。
以前はWeb会議をするにも、マイクなどの機材を都度セッティングしなければならなかったり、専用の通信環境が必要だったりと、手間がかかるツールを使っていたんです。コロナ禍を機にTeamsに移行してからは、みんなが使えるようになりました。
Web会議に限らずツールを選ぶ際には、やがて使われなくなるのを避けるため、複雑な操作がない「ボタン一つで」を重要なテーマとしています。直感的に操作できるツールがいろいろ出てきてくれたおかげもあって、着実にデジタルシフトが進んでいると感じています。
酒井:スマートフォンの導入についても、工夫されたとお聞きしました。
羽咋:少し前の話になりますが、ガラケーやタブレットなどのデバイスと通信会社を統一するため、2013年に社用携帯をスマホに切り替えました。そのタイミングで、営業職だけではなく、全社員にスマホを配布。最初のうちはアプリのダウンロードを制限していましたが、好きなアプリを使えるようにしたほうが主体的に活用してくれる人が増えるのではと考え、自由にできるように解禁。すると、予想以上にいろいろなアプリを入れている人がいて驚きましたね(笑)。多少問題は起きるかもしれませんが、MDM(Mobile Device Management)でセキュリティを担保しつつ、自由に使ってもらうことを優先しています。
酒井:禁止したり、そもそもダウンロードできなくしたりするほうが、情シスとしては安心だと思うのですが、勇気のある決断ですね。
羽咋:スマホアプリに限った話ではなく、情シスが一方的に禁止してしまうことで、興味を持ってくれた人の芽を潰してしまう可能性もありますよね。せっかく心が動いたのに、もったいない。守るべきものはシステムで守り、できるだけ利用促進に動いたほうが、私はいいと思います。