モダナイゼーションの成否握る、IT部門長/CIOに必要な資質とは
米国と日本を見たとき、その違いの1つに企業規模がある。ビジネス規模が異なるために、米国の最大手企業におけるモダナイゼーションは、通常よりも多くの時間を要してしまう。また、日本ではメインフレームなど、プラットフォーム自体が富士通やNEC、日立といった国内ベンダーが多くを占めており、IBMや旧ヒューレット・パッカードが中心の欧米市場とはアプローチも異なる。とはいえ、ユーザーが目指すゴールは世界共通だろう。
最終的なゴールだけでなく、エンジニア不足、ベテランエンジニアの引退によるシステムのブラックボックス化といった課題も共通だ。ただしマクギル氏は、よく話に上るレガシー言語とされるCOBOLについては、それを取り巻くプラットフォームにこそ問題があると指摘すると「COBOLは学びやすく、良い言語です。一方、開発者が求めるのは最新の環境。つまり、最新のツールやクラウド上での開発環境を提供すれば、Javaと同様のプロセスで扱えるようになるため、COBOLアプリケーションだとしても特別な負担なく、開発者に受け入れられでしょう」と話した。
COBOLで作られた多くのアプリケーションやシステムは非常に大規模で、古いハードウェアやOS上で動いている。つまり、これらを新しい環境に移行することが肝要であり、モダナイゼーションで最も優先すべきは言語そのものではなく、古いプラットフォームを新しいものに置き換えることだ。
その上でオンプレミスなのか、クラウドなのか。いずれを選ぶかはユーザー次第だが、多くの顧客はアーキテクチャを変えずにLinuxかWindowsを選択するようなオープン化を目指すという。実際にRocket Softwareにも同様の引き合いは多く、「我々が支援する中では、ベストプラクティスを反映した『モダナイゼーション成熟度モデル』を活用し、段階ごとにアプローチを明確に示しています。特にアプリケーション・プロセス・インフラストラクチャの3要素を一体として考えることが大切です」とファウラー氏。当然ながら多くの企業が円滑なモダナイズを進めたいと考える一方、「多くのモダナイゼーションプロジェクトでは、CIOの任期期間である3年以内に成果を出すことも求められます」とも述べる。
どれだけ長大なシステムであろうと、10年計画のプロジェクトではCIOの任期を大きく超えてしまうため、CEOから実現性が低いと見なされるからだ。プロジェクトの期間が短くなればリスクが減少し、成功の可能性が高まる。このように考える企業が多数を占めており、プロジェクトの期間短縮が求められている状況だという。
その背景には、「目的の明確化」と「不要要素の排除」がある。ファウラー氏は「必要最小限の変更を加えながら、段階的かつ継続的に進めることが肝要でしょう。プロジェクトが中断したとしても成果を活用でき、次の段階へ進むこともできるような方法が必要です」と述べた。
では、短期間でモダナイズの成果を上げることが求められるCIOには、どのような資質や能力が必要なのか。その1つは「経験」だという。
マクギル氏によれば、一度でもモダナイゼーションプロジェクトを成功させたことのあるCIOは、同様の課題を抱える別の企業に移り、再び同様の成果を求められる傾向にあるという。言い換えれば、既に成功経験を持つCIOの起用は、モダナイズ成功の鍵になるということだ。
もう1つの重要な要素は「現実主義(現実的なアプローチをとること)」だとマクギル氏。CIOには、モダナイゼーション成功に至るまでのプロセスをひも解き、実状に即しながら柔軟に対応していう能力が求められる。経験と現実主義、この2つがモダナイゼーションを成功に導く鍵だ。
「モダナイゼーションは、オフィスの引っ越しに似ています。一度引っ越しを決めて、新しい場所に移ることを選べば、簡単に後戻りはできません。そのため、成功裏に移行するためのプロセスを計画して信じることが重要です。また、CIOは信じているプロセスが“信頼できるプロセス”であること、リスクの管理も可能であることをCEOに理解させる必要もあるでしょう」(マクギル氏)