王子HD、1万人超が使うデータ分析基盤を整備──“後発”ゆえに先行企業の教訓を生かしてスピード導入
経営層が発した大号令!「Excel依存」によるデータ活用の後回しから脱却
多くの日本企業が長年抱えてきた“根深い課題”──それは、膨大な時間と優秀な人材を消耗する「Excelシートの山」と「バケツリレー」である。会議資料は手作業で作成され、数字の整合性を取るためにExcel職人的作業が各所で発生していた。「極めて優秀な人に作業をさせている」と指摘するのは、王子ホールディングス 執行役員 兼 王子ビジネスセンター 代表取締役社長の藤川健志氏だ。「Domopalooza Japan 2025」で行われたドーモ プレジデント ジャパンの川崎友和氏との対談と、その後のインタビューの様子をレポートする。
DX推進部の発足は後発……だからこそ“スピード”を重視
創立1873年、150年以上の歴史を持つ王子ホールディングスは、連結従業員数約3万9000人を擁し、グローバルな事業展開を進める巨大企業である。製紙業から産業資材、森林資源を基盤とした資源環境ビジネスへと事業の軸足を移す中で、社内に眠るデータ活用の抜本的な改革が急務となっていた。IT・DXの責任者を務める藤川氏自身、キャリアの半分を事業部門で過ごしており、現場で“Excel疲弊”を肌で感じていたという。
2023年半ば、CEOから「うちでもDXをちゃんとやっていかなければいけない」という問いかけが、データドリブン経営への取り組みの起点となった。同社が目指したのは、華々しい事業変革ではなく、最も本質的な課題であり、地に足のついた「情報資産としてのデータ利活用」の実現だ。
王子ホールディングスがDX推進部を発足させたのは2024年2月と、比較的後発のこと。その背景には、経営層が持つグローバルレベルの視点と、日本特有の非効率な労働環境への危機感があった。というのも、CEOや副社長は海外勤務の経験が長く、データ利活用が当たり前に行われている海外企業の経営を熟知していたのだ。海外ではデータ活用が当然という経営陣らの感覚は、「グローバル企業として引き上がったところで勝負しなきゃいけない」という意識を全社に広めた。
実際、日本国内では「Excel職人」によって文化が固定化してしまったのに対し、海外拠点ではBIツールへの移行がスムーズに進んでいたと分析する。この背景のもと、同社が立てた仮説は「優秀な人材を非生産的な資料作成から解放し、思考をスタートさせる位置を引き上げることこそが、企業成長の鍵となる」というものであった。藤川氏は、資料作成に多大な時間を費やす現状を問題視し、次のように語っている。
「極めて優秀な人に(Excelでの作業を)させている。知的労働の働かせ方ということで言うと、資料は手元でできあがっている状態からから『どういうことをやるのか』『どう考えるのか』に時間を費やしてこそ成長できるのではないか」
こうした考えに基づき、DXの一丁目一番地であるデータ利活用を、全社的に、そして迅速に展開することが至上命題となった。
(左から)ドーモ株式会社 プレジデント ジャパン 川崎友和氏、
王子ホールディングス株式会社 執行役員/王子ビジネスセンター株式会社 代表取締役社長 藤川健志氏
役員会議で「Excel資料廃止」を宣言 トップの変化が全社に波及
同社のデータ活用プロジェクトの最大の特徴は、展開の「速さ」と「広さ」を追求するために採用されたトップダウンの戦略だ。ボトムアップの積み上げでは間に合わないという判断から、まずは経営層から強制的に環境を変える「逆転の発想」で実行された。
Excelの山からの脱却を目指した同社は、操作性の簡便さやデータの接続性などからデータプラットフォームとして「Domo」の採用を決定。導入してわずか2ヵ月で営業系ダッシュボードのプロトタイプを内製で作成した。その後、経営会議用ダッシュボードの制作を進め、2025年4月の役員会議で藤川氏は「翌月からの決算報告はすべてDomoに変える」と宣言し、それまでのExcel資料による報告を廃止したのだ。トップの会議がBIツールの使用に移行することで、その下のカンパニーや事業部門も必然的に同ツールでの会議運営を余儀なくされる「やらざるを得ない状況」を作り上げた。
あわせてDX推進部主導でCEOの動画メッセージを制作し、全社に配信することで「全社で取り組む」という空気感を醸成。レベル別に使い方をレクチャーする「トレーニングアカデミー」も企画し、わずか数ヵ月で1万人を超える従業員が受講した。
とはいえ導入初期は、長年使い続けてきたExcel文化に固執する中間層からの抵抗も少なからずあったと振り返る。それを乗り越えたのが約150年続いてきた老舗企業の底力だ。「大きな変化点では時代に適応しようとする力がある」と藤川氏が語るように、潜在的な企業カルチャーとトップダウンの強制力が、この抵抗を乗り越える推進力となった。
この戦略的な切り替えは、多くの大企業が直面する文化的な抵抗を、トップダウンの強制力で乗り越えることを可能にしたことを示す。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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