王子HD、1万人超が使うデータ分析基盤を整備──“後発”ゆえに先行企業の教訓を生かしてスピード導入
経営層が発した大号令!「Excel依存」によるデータ活用の後回しから脱却
ゴルフ場でも業績確認 データ人材を評価する新・人事制度を検討
全社的なDomo導入とトレーニングアカデミーの実施後、同社では定量的・定性的な効果が現れ始めているという。
多忙な経営層はモバイルアプリ機能で、移動中やゴルフ場などでスマートフォンやタブレットを通じてリアルタイムな業績データにアクセスできるようになった。経営判断の迅速化だけでなく、経営層がデータ駆動型の姿勢を示すことにもつながり、全従業員の動機付けとなっている。
全社で機運が高まる中、約2割が熱心にBIツールを活用し始めるようになり「自分たちでこういうことをやりたかった」という潜在的なニーズを実現し始めた。Excel資料作成に費やされていた時間から解放され、会議の内容も単月比較の報告から、長期的なトレンドに基づいたデータ分析と戦略議論へと変化していったという。
しかし、新たな課題も発生している。それは、データサイエンススキルを身につけた優秀な人材に対する人事評価・給与制度の整備だ。社内で育ったデータ人材が自身の市場価値を知り、社外に流出するリスクを抱えている。そのため、同社は給与面などで適切に評価・処遇する制度を、喫緊の課題として人事部門と議論していることを明かした。藤川氏は、この「人」への投資こそが、DXを継続・発展させる鍵となると語る。

BIからAI活用に移行──「日本企業のポテンシャルはデータ活用にある」
王子ホールディングスのデータ経営への取り組みは、既に次のフェーズであるAI活用へと移行しつつある。Domoによって整備された大量のデータを基に、AIと連携させて営業戦略の壁打ちや、より効率化・自動化を目指しているという。その背景には、過去のインターネットの波を乗りこなしきれなかった反省も踏まえ、AIの波を企業成長のエンジンとするという強い決意がある。
藤川氏は、AIを、人間に代わってすべて行うツールではなく、「人間が思考をスタートする位置を上げる」ための武器と位置づけている。従来の仕事のプロセスは、Excel資料を作成することから始まっていたが、BIツールやAIと連携させることで、思考の出発点は「AIがレコメンドしてくれたところ」や「リアルタイムのデータから得られるインサイト」へと高まるのだ。
最後に藤川氏は、会場のビジネスリーダーたち、そしてすべての日本企業に対し、データ活用のポテンシャルについて次のように呼びかけた。
「日本は、企業経営にデータをしっかり活用しているのが欧米や東南アジアに比べて非常に低い水準だ。ということは、データ利活用すれば、日本はポテンシャルを持っているということである。データ利活用のためのツールやAIとの結びつけをしっかりやっていけば、それぞれの会社のポテンシャルはまだまだ引き出せるはずだ」
歴史ある大企業であっても、トップの強い意志と適切なテクノロジー、そして大胆な実行戦略があれば、短期間で全社的なマインドセットとワークスタイルを革新し、企業が持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるというメッセージを伝えている。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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