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IFRSに立ち向かう!~会計理論からかんがえるシステムの話(前編)

前編


IFRSの影響は個社にとどまらずグループ企業全体に及ぶ。グループ全体での会計処理と財務報告の標準化が求められているのだ。それを実現するには会計を中心したシステムの全体最適が必要である。自社グループに最適なIFRSに対応するシステムの実装手法の考え方を、最新のITソリューションと会計の基礎理論の双方から考察する。

IFRS対応のためのシステムとは

 企業がIFRSに対応するために、会計システムを中心としたIT・情報システムが担う役割は非常に大きい。東京証券取引所が2009年8〜9月に調査を実施し、10月に公開した「国際会計基準(IFRS)の適用に向けた上場会社アンケート調査結果の概要」によれば「導入に伴う懸念等」は回答数1416社中、1000社を超えて圧倒的に関心を集めたのが「導入後の決算事務負担」の77・7%(1100社)、「システム対応」75・6%(1070社)である。以下、「国際会計基準に対応する社内人材の不足」67・1%、国際会計基準に対する理解不足」63%、「導入コスト」54%、と続く。

 一言に「システム対応」といっても、どういう視点で考えればいいのだろう。データマネジメントやSOAによるシステム連携やセキュリティといった「テクノロジーの視点」と、会計を中心とした販売、購買、生産管理、業績管理といった様々なビジネス要求に対応していく「業務アプリケーションの視点」という2つの視点。そしてIFRSへの対応はグローバルかつグループ全体で求められるので、この2つの視点を「グローバル・グループ全体での最適化」するという大きな視点で捉えると分かりやすくなる。

 国際会計基準の要件に対応する機能を備えた会計を中心とする基幹業務システムをグループ全体で連携させる、理想的には統合させる、マスターやデータは標準化してセキュリティが確保された状態で一元管理されていなければならない、というイメージだ。

業務アプリケーションの視点

 この3つの視点の中で、根幹になるのは「業務アプリケーションの視点」である。日本企業がIFRSに対応しようとした場合、日本基準とIFRS基準の2つの総勘定元帳(GL)を保持したり、収益認識のタイミングが変更になったり、固定資産の管理の仕方が変更になるなど業務プロセスが大きく変わる。したがって、会計システムを中心とした業務アプリケーションにIFRSに対応するための、多くの機能が必要となる。

 この「業務アプリケーションの視点」も3つの領域に整理すると分りやすい。(図1)

図1 業務アプリケーション視点におけるIFRS対応3領域

 1つ目は「報告とレポーティング」領域である。 GLシステムや販売管理システムなどの業務システムから会計データを収集してIFRSベースの連結財務諸表を作成する。「複数会計基準の財務諸表を生成する機能」や「XBRLへの対応機能」も必要である。

 システムの導入手法としては「グループ連結システム」を導入する。この方法は親会社とグループ個社の既存業務プロセスやシステムには手を入れずに、連結システムで、グループ各社から報告や調整に必要なデータを収集し、通貨や勘定科目を組替、調整を加えIFRSベースの連結財務諸表を作成する。本社連結財務諸表作成部門だけで構築できるのでシステム構築の時間やコストなど初期投資負担は抑えられる。

 その半面、個社のシステムはそのまま残るので、グループ全体での業務効率の向上、システム運用や監査コストの軽減は望めない。しかも収集、組替、調整は本社側の作業となるのでその負荷は大きい。内部統制レベルも低く、監査の負担も大きくなる。M&Aでグループ会社が増えたり、4半期開示や開示の早期化の要請が強くなればなるほど担当部門の負荷は一層高くる。さらに、IFRSベースの開示に必要な粒度のデータが集まる保証はない。

 この手法1は、開示に必要な連結財務諸表作成する最低限の対応をにらんだ「グループ標準レポーティング基盤」といえる。(図2)

図2 手法1 連結システムで対応

 

 2つ目は「総勘定元帳、仕訳、勘定科目」領域である。IFRS対応で特に重要なのはこの領域であり、ITの活用なくしては実現困難なパートでもある。

 この領域ではIFRS基準GLと日本基準GLや子会社のGLなど異なる会計基準や複数子会社のGLを同時に保持し管理ができる「複数帳簿機能」、そして、1つの取引から会計基準の異なる複数の仕訳を生成し対応する複数のGLに送りこむ「複数仕訳生成機能」がその要件となる。さらに、勘定科目の定義、管理もここで行われることになる。「マネジメントアプローチ、セグメント報告のための制管一致勘定科目マスター」の登録、管理機能だ。

 一般会計システム、GLシステムと言われるシステムがこの領域の主役である。その導入手法としては手法1の「グループ連結システム」に加え、その上流に「グループ共通GLシステム」を導入する手法がある。

 この方法は親会社とグループ個社の業務プロセスや業務システムには手を入れないが、個社でばらばらであった総勘定元帳、決算システムをグループで1つのGLシステムに集約し、親会社、グループ個社のそれぞれのIFRS基準元帳とローカル基準元帳を一元的に管理する仕組みである。運用は本社連結財務諸表作成部門だけではなく、グループ個社の決算担当者も集約されたGLシステムをシェアード形式で利用する。

 個社の業務システムから発生する取引データを元に、IFRS基準とローカル基準の仕訳をIFRS 機能通貨とローカル通貨で生成し、IFRS基準元帳とローカル基準元帳に記帳する。この仕組みを実現するにはGLシステムに「多通貨」「複数帳簿」「複数仕訳生成」といったグローバル、グループで利用する機能が要求される。最新のグローバルERPシステムのGLモジュールにはすでに搭載されている。

 この方法は、個社のGLシステムをグループ標準GLシステムに移行するため、本社部門だけではなく個社の決算担当など経理部門の参加が必要である。加えて経営層も巻き込んでマネジメントアプローチに対応した個社や連結での制管一致共通勘定科目体系の設計、運用など、当初のシステム構築には相応の時間とコストがかかる。

 しかし、物理的にGLシステムがグループで1つになるので、システム運用コストの削減、M&Aによる会社の増加による総勘定元帳の増加にも柔軟に対応できる。加えて、グループ統一の勘定科目体系ができるので、管理会計やグループ経営管理の高度化も実現できる。さらに複数基準仕訳の生成が自動化され、IFRS基準元帳とローカル基準元帳の双方に格納され保持されるので内部統制のレベルも上がる。

 この手法2により「グループ制管(制度+管理)会計基盤」が構築できる。(図3)

図3 手法2 共通一般会計システム(GL)で対応

 最後の3つ目は「業務プロセス」領域。この領域は、収益認識をカバーする販売管理システムや従業員給付をカバーする人事給与システム、金融商品をカバーする財務・資金管理システム、有形固定資産をカバーする固定資産・不動産管理システムなど、IFRSに求められる業務プロセスをこなし、会計データを作成する領域である。

 システムの導入手法としては「グループ連結システム」と「グループ共通GLシステム」に加えて最上流にIFRS対応の「グループ共通業務システム」を導入する方法である。この方法は、GLシステムだけではなく、固定資産管理や金融商品管理、支払・入金といった会計関連システムはもちろん、販売、購買、在庫、生産管理といった「物」に関するシステム、人事、給与といった「人」に関するシステムなどの業務システムをグループ標準システムに移行する方法である。

 最新のグローバルERPシステムは有形固定資産のコンポーネントアプローチ、検収基準での収益認識、有給休暇債務の把握といったIFRSが求める業務要件をカバーしている。

 システムの標準化に先立ち業務を標準化するため、経理部門だけではなく購買部門や営業、販売部部門、人事部門など多くの部門がかかわることになる。したがって、初期の導入負荷は高い。しかし、物理的にグループで業務システムが1つになるので、システムの運用コストが劇的に下がる。しかも業務も標準化するので、シェアードサービスセンターへの業務集約や、グループでの集中購買、グローバルキャッシュマネジメント、グループ人事といった経営面でのメリットも享受でできる。まさに手法3は「グループ経営管理基盤」となる。(図4)

図4 手法3 共通業務システムまで対応

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3つのモデルを組み合わせる

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この記事の著者

桜本 利幸(サクラモト トシユキ)

日本オラクル株式会社 アプリケーション事業統括本部 担当ディレクター。ITコーディネータ、公認システム監査人、法政大学大学院兼任講師、日本CFO協会主任研究員、After J-SOX研究会運営委員。都市銀行にて企業金融、ストラクチャードファイナンス、商品開発に従事後、1998年4月 日本オラクル株式...

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