AIが変える、ネットワーク管理の世界
「AI」は、今や企業戦略の要となっており、さまざまな業界に変革をもたらす、イノベーションの原動力となっています。またネットワークもリアルタイムのデータ処理、拡張現実、高度なコンピューティング・ワークロードをサポートする“動的なシステム”へと進化してきました。前編で述べた通り、企業はAIを活用することで業務を合理化し、意思決定を向上させるなど、これまでにない新たな機会を創出できるのです。
そうした状況下、ITリーダーの課題は「AIを採用するか否か」ではなく、複数のチームやシステムを対象に「いかに効果的にAIを統合するか」へと移り変わっています。そして今、こうした変革の最前線にいるのがネットワークエンジニアです。
かつては手作業での環境構築・保守を主な業務としていましたが、今ではAIがワークフローを自動化したり、エンジニアの意思決定を手助けしたりと、利便性と共にもたらされた“複雑性”による新たな課題に直面しています。また経営陣も「エンジニアリングチームは、こうした変革にどのように準備すべきか」「彼らに求められるスキルやツールは何か」「期待されるAIのメリットと現実の導入状況、どのように折り合いをつければよいのか」など、さまざまな観点で頭を抱えていることでしょう。
ネットワークエンジニアにとってのAIは、単なるツールから協力的な「同僚」へと変化し、ネットワーク管理の在り方を根本的に再構築しています。たとえば、事前に定義されたタスクを実行するだけでなく、膨大なデータセットを分析することで異常を検出し、エンジニアの判断に役立つような提案をしてくれるようになりました。こうしたAIによる機能をもったツールが登場してきたことで、日常的な保守作業に煩わされることなく、より戦略的な業務に専念しやすくなっているのです。
たとえば、突然アプリケーションの性能が低下し、トラブルシューティングを行う場合を考えてみましょう。Microsoft TeamsやSlackに似たチャット型インターフェイスを通じ、エンジニアはAIに「リージョンAでアプリケーションのレイテンシーが急増している理由は」と問い合わせると、AIは次のような回答を瞬時に生成します。
リージョンAのレイテンシーは、リンク5の輻輳により基準値を75ms上回っています。これはおそらく、最近のソフトウェアアップデートにともなうトラフィックの急増に起因していると考えられます。利用可能な容量のあるリンク7を経由し、トラフィックの一時的な迂回を推奨します。
エンジニアはこの提案を検証し、変更を実施するようAIに指示。その結果をリアルタイムで監視します。問題解決後にAIは、重要度の低いアップデートをオフピークの時間帯に予約するなど、将来的なトラブルの回避に向けて最適化の方針も提示してくれるでしょう。
AIが問題を迅速に診断して“実用的な解決策”を提案し、反復的なタスクを処理をこなす傍ら、エンジニアはプロセスを管理して微調整する。これにより問題解決までの時間を短縮し、想定外の条件下でもネットワークの堅牢性と回復力を維持していきます。
エンジニアはAIにネットワークの維持を委ね、AIも迅速に対応することで支援する。AIが人間にとって代わるのではなく、人間の専門知識を補強することで、より優れた成果を上げられるようになるのです。