ネットワークエンジニアの役割は、どのように変化していく?
AIが台頭するにともない、ネットワークエンジニアの役割は大きく変化しています。これまでの業務は「アップタイムの確保」「パフォーマンスの最適化」「問題のトラブルシューティング」など、手作業による細かな業務が中心でした。しかし、AIによってプロセスの多くは自動化されており、その精度も向上しています。
また、運用の効率化だけでなく、将来の課題を予測するような適応性・拡張性に優れたネットワークを設計する際にも、AIは役立つことでしょう。たとえば「AIドリブン型のネットワーク」では、トラフィックパターンを動的に調整し、クリティカルなワークロードの優先順位を提案。エッジコンピューティングやAR/VRなど、新たなテクノロジーをサポートすることも可能です。こうした変化には技術的な専門知識はもとより、AIを積極的に受け入れることで「ネットワーク戦略をより広範なビジネス目標と合致させる」という、思考の転換が欠かせません。つまり、今後のエンジニアには、ビジネス部門との協力体制がこれまで以上に要求されるでしょう。
「AIドリブン型ネットワーク」を担えるエンジニアの育成
AIがネットワーク管理の中心的な役割を担うようになっていくと、ネットワークエンジニアに求められるスキルも変わっていきます。AI技術の基礎的な理解だけでなく、その種類や用途を把握する必要があるでしょう。会話型、双方向型、エージェント型(自律型)のAIシステムは、それぞれネットワーク運用の最適化において独自の役割を担っているため、どのように利用すれば効果的なのか、さまざまな課題を想定しながら学ぶ必要があります。
会話型AI:バーチャルシスタントやチャットボットとして導入される場合が多く、自然言語でAIと対話できます。たとえば、エンジニアは会話型AIに対して「今日のネットワークの重要アラートは?」「先週のパフォーマンス指標に関するレポートを生成できる?」といった質問を投げかけることで回答を得られます。会話型AIは、一元化された“ナレッジ・インターフェイス”として機能することで、情報アクセスの簡素化、日常的なタスクの合理化、応答時間の短縮といった優れた能力を発揮してくれます。一方、有益な回答をいち早く引き出すためには、AIへの適切な言い回しを身につけなければなりません。
双方向型AI:双方型AIは、より動的かつ双方向的な意思決定をリアルタイムでサポートしてくれます。たとえば、帯域幅のボトルネックに関する潜在的な解決策を分析するため、エンジニアはAIに「ノードXではどのような迂回案が考えられますか?」と質問します。するとAIは、効率性とコストでランク付けされた選択肢を提示し、それぞれの案について詳細な可視化と根拠を提示してくれるのです。その特徴からネットワークエンジニアには、AIによる提案を批判的に評価し、より広範な運用計画に統合していくスキルが求められるでしょう。
エージェント型/自律型AI:これらのAIは、事前に定義されたパラメーターによって動作し、ネットワークの監視や最適化、自己修復などを実行します。言い換えるならば、人間が常時監視する必要がないという点で、より高水準の自動化を実現してくれる存在です。エージェント型AIでは、障害のあるリンクを検出・隔離すると、自律的にトラフィックを迂回させて自己解決。その後エンジニアに通知する、といったことも実現可能でしょう。人間が介入する必要性が減る一方、組織のポリシーを遵守させ、想定外の結果を招かないような管理体制が求められます。
業務に適した形でツールを使いこなしていく
前述したようなAIを活用するためには、技術的な知識だけでなく「戦略的な思考」も身につけなければなりません。会話型AIが常に複雑なトラブルシューティングに必要な回答を返してくれるとは限りませんし、すべての問題にエージェント型AIが必要な訳ではありません。複数地域のトラフィック異常をリアルタイム監視する場合には、双方向型AIが適していれば、過去のデータやシステムアラートに関する定期的な問い合わせには、会話型AIを用いることで時間とリソースを節約できるでしょう。
つまり、ネットワークエンジニアには「拡張性」「リスクの許容度」「組織の目的」などの要素を評価しながら、業務に適したAIツールを選定することが求められます。たとえば、グローバルなトラフィックフローの最適化など、重要タスクにエージェント型AIを組み込む場合、徹底的なテストと承認が必要になるでしょう。これとは対照的にサポートデスクからの問い合わせを支援するための会話型AIは、迅速に展開できるはずです。
このようにAIの能力における“微妙な違い”について理解を深めることで、技術的なスキルセットを強化できるだけでなく、自社の「AIドリブンな変革」に貢献する人材としてのポジションも確立できるのです。また、ITリーダーにとっては、こうした要件にフォーカスしたスキルアッププログラムに投資することが、将来を見据えた人材を育成するために欠かせません。