敵を知る −最近の脅威の傾向
最近の脅威の傾向には、明らかな変化があるといえる。従来のような、公開サイトの脆弱性を悪用し、SQLインジェクションなどの手口で侵入し、データベースなどからクレジットカード情報やアカウント情報を窃取していく事件がなくなったわけではない。しかし、公開サイトから情報を窃取するのではなく、公開サイトは踏み台にし、その利用者を悪質サイトに誘導してウイルスに感染させ、その後、利用者サイドから情報窃取をするように変化してきている(図1)。
なぜ、このようなことが起きるのか。意外に思われるかもしれないが、サイト改ざんが発生したとして、その原因を正確に解明するということは事実上不可能である。たとえ、Web 制作者のパソコンがウイルスに感染し、Web サイトのメンテナンスアカウントが奪取され、その結果改ざんされたという状況証拠がつかめたとしても、制作者のパソコンから盗られたアカウントがどのように改ざんを行った犯人にわたり、その情報が実際に改ざんに使用されたかを客観的に証明することは極めて難しいのだ。
同様に、例えば個々の利用者のパソコンからクレジットカード情報を窃取して、どこかのサイトで成りすまして悪用したとして、その因果関係を証明することは難しい。
これらのことから、犯罪者は、意識して問題として露呈しづらい方向にシフトしていっていると見たほうがよい。サイトに侵入されて情報を窃取された場合、明確な証拠をつかむのは難しいが、被害内容や規模は特定しやすい。一方、個人のパソコンから抜かれた情報での犯罪は統計をとるのも至難の業であり、しかも因果関係を推測することさえ難しいのが実態なのだ。これは、組織にとっても同様である。ある組織で悪質なプログラムにより組織内部のパソコンが遠隔地から操作され情報を窃取されたとして、別途露呈した機密情報の漏洩との関係を実証するのも大変難しく、実際には被害が出た可能性はあるが、明確な証拠はないといわざるを得なくなるのだ。このことは組織を守る上でも極めて重要なこととなる。
一方、当然のことであるが内部犯行も想定しておかなければならない。経済環境悪化の中、雇用を確保している経営者にしてみれば泣きっ面に蜂かもしれないが、内部に犯罪者を出さない仕組みの構築が重要で、これもプロ意識が重要なキーとなる。相互に領空侵犯をしてチェックが入るからだ。しかし、それでも100%防げるものではない。
つまり、今後は原因が不明のセキュリティ事件にどう対峙するかの仕込みが重要だ。例えば、拡散を防ぎたい営業秘密情報である場合、保護対象に透かしや特別なトラップデータを仕込んでおき、自分たちの内部から持ち出されたものであると証明できるようにしておくことなどが挙げられる。