
AI活用で業務効率化が注目される中、多くの企業でCRMが「入力の墓場」と化している現実がある。商談管理の本質は過去の報告ではなく、営業担当者の未来の活動を支援することである。データドリブンなマネジメント実現には、入力項目の定義より先に押さえるべき基本的前提が存在する。今回は商談管理を機能させるための「視える化と視る化」「ゴール設定」「プロセス分解」の3つの前提と、業種・業態に応じたSalesforce活用の考え方などを解説する。真のAI活用成功に向けて、まずは自社の業務プロセス見直しから始めることが重要である。
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最近のAI関連特集では「AI議事録でミーティング準備時間を半減」「メール作成をLLMが肩代わり」といった記事がメディアを賑わせています。確かに効率は上がったかもしれませんし、従来外注していたコストは浮いたかもしれません。
しかし、我々自身がその分仕事の手順やお客様への提供価値、つまり習慣やプロセスを見直せていないのでは、AI活用の成功と呼ぶことは出来ないのではないでしょうか?
更新されないフェーズ欄、受注確度が曖昧なままの商談パイプライン、見積や受注登録のために入力される商談データ……冒頭のような華やかなAI活用が掲げられる一方で、Salesforceのオブジェクトに保存される内容は依然として「入力の墓場」になりがちです。
なぜAI活用に躍起になりながらも、人々は「商談管理」というCRMの一丁目一番地でつまずくのでしょうか?それは、入力を徹底させないからとか、トップダウンの意思が足りないといった表層的な理由だけではありません。
CRMを「入力の墓場」にしないために
そもそも商談を管理したいのは誰なのでしょうか?
多くの場合、SFAの商談管理機能は営業に「使わせる」、「入力させる」ものとして導入されます。商談を管理したいのは、営業担当者のためでも、営業成績を上げるためでもなく、管理のためというパターンが非常に多く見受けられます。
たとえば、受注見込みや実績を会議までに資料化したい営業部長のためであったり、失注原因の分析や施策の実施成果を集計したい営業企画のためであったり、はたまた、受注後の出荷・納品手続きを行うため、といった具合です。
こうした業務が存在すること自体は不自然ではありませんが、本質的には商談プロセスをより良く、前に進める存在へと成長させていくべきです。
商談管理が業績に貢献している現場とそうでない現場との違いを挙げるとするなら次のようなものです。「現在から未来の活動へ繋げるアプローチ」か、「過去のことを現時点で理解するためのアプローチ」か、です。いずれも重要に思いますが、偏重すれば成り立ちません。
営業マネージャの報告のケースも、営業企画の施策管理のケースも、いずれも前を見据えているようでいて過去の行いを把握するために立ち止まっているに過ぎません。受注実績や積み上げ状況から算出する見込みも過去の行いですし、失注分析や施策の効果測定も過去の行いを現在の視点で分析するものです。
御社ではこのような活動のために、多くの営業担当者が足を止め、手を止めてデータを入力させられてはいないでしょうか?

営業現場が意識すべきは、現在進行形で追いかけている今期の目標とのギャップを把握することであり、それを埋めていくことです。営業担当者は目標からの逆算で今期どう達成したらいいか悩んでいる最中であるのに、成果に直結しない過去の報告材料や、組織レベル・中期目線の作戦検討材料として入力を強いられるようではただの負担にしかなりません。
営業担当者の時間を創出し、パフォーマンスを向上させるための商談管理になっておらず、商談のデータが別の誰かの仕事をするために使われているのでは、AIでいくら時間を創出したとしても営業生産性をN倍に引き上げていく、というのは夢のまた夢でしょう。
多くの企業が見落としている3つの前提
商談管理を始めようとすると、まずは商談の中でチェックさせたいBANT項目、分析用カテゴリなどの選択リスト項目、見積提示や提案中といったステージ項目など、入力内容を定義して早速入れさせ始めようとしてしまいがちです。商談や関連するマスタのようなデータテーブルを用意し、今日から商談管理を始められる柔軟性はSalesforceの特徴の一つですがこれでは機能しません。
商談管理以前に、データドリブンなマネジメントをするなら抑えておくべき、3つの基本的前提に触れておきます。「1.視える化と視る化」「2.ゴール設定」「3.プロセス分解」です。
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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