AIエージェントでIT運用を自動化
HPEはDell TechnologiesやIaaSを提供するクラウドベンダーと競合している。その過酷な競争環境下、ネットワークは差別化と位置付けてきた分野だ。
分社化した年には、買収を完了していた無線アクセスポイントのAruba Networksを軸に、ハイエンドのネットワークスイッチなど、ポートフォリオを拡大。2024年初頭にはJuniper Networksの買収を発表した(HPE Discoverの翌週、米司法省との和解を経て買収が完了した)。
ネットワークでは、前述したAIと組み合わせ、「AIのためのネットワーク」「ネットワークのためのAI」という、2つの方向性を示唆。ネリ氏は「この20年でユーザーやデバイス、アプリケーションが生成するデータの量は、爆発的に増加している。(ここと連動するように)ネットワークの性能とセキュリティの重要性も増している」と指摘すると、AI時代におけるネットワーク需要は増加していくと話す。
実際にHPEは、この1年間にプライベート5G向けソリューション、データセンターやキャンパス向けのスイッチ製品、Wi-Fi 7対応のアクセスポイントなどの製品を提供してきた。また、ネットワーク機器の設定・監視を一元化する「HPE Aruba Networking Central」があり、ストレージ管理技術や買収した「OpsRamp」の統合、サードパーティデバイスの対応なども進めている
なお、イベントではHPE Aruba Networking Centralにおいて、推論モデルを活用した「Agentic Mesh」が発表された。これはイベントの目玉となる、HPE GreenLake Intellifenceの一部でもある。
HPE GreenLake Intelligenceは、AIエージェントフレームワークであり、MCP(Model Context Protocol)を用いて、ITスタック全体にわたってデータを収集・学習することで運用の自動化などを目指すもの。たとえば、適切に状況を把握しながら担当者にアラートを発報したり、トラブルシューティングを提案したりする。「表面的な自動化ではない。コンピュート、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアで構成される“完全な”スタックに基づいた、システム全体にわたる深いレベルでのインテリジェンスとなる」とネリ氏。

2025年後半には、HPE GreenLake Intelligenceとして前述したAgentic Mesh、HPE GreenLake向けのCo-Pilotの提供を順次開始するという。
またイベントでは、HPEが買収した先述のOpsRamp、ハイブリッドクラウド管理「HPE Morpheus」、仮想化/クラウド向けデータ保護の「HPE Zerto Software」の3種類をセットにして提供する「HPE CloudOps Software suite」も発表された。それぞれの技術はHPEの下で提供されているが、「単一のソフトウェアパッケージとして使用したい、というニーズがあった」と同社 CTOであり、ハイブリッドクラウド事業部門のエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるフィデルマ・ルッソ(Fidelma Russo)氏は記者に語った。
その一部には、2024年に発表した「HPE Morpheus VM Essentials Software」も含まれる。KVMなどのハイパーバイザをサポートするランタイム環境で「HPE Private Cloud」と統合しており、バックアップ領域においてはVeeamとCommvaultの2社との提携も発表した。「仮想マシンライセンスの費用をソケット単位で、最大90%削減できる」とネリ氏。24時間365日のサポート、ベアメタルとの性能差を2%以下に留めるなどの特徴に触れながら、「大規模な“仮想マシンのリセット”が始まっている。HPE Private Cloudは高速で柔軟性も高く、AI向けに構築されているため、より良い将来に向けたロードマップになる」とも述べる。HPEは「(VMwareの)次に向けた準備を支援する」と呼びかけるなど、Broadcom(VMware)ショックへの救済策としても位置付けた。
加えて、ハードウェアでは、NVIDIAとの提携に基づく“AI factory”として、8個のNVIDIA Blackwell Ultra GPUに対応した「HPE Compute XD690」、NVIDIA AI Data Platformリファレンスデザインに基づき、MCPサーバーをサポートする「HPE Alletra Storage MP X10000」、「HPE ProLiant Compute Gen12」、NVIDIA Blackwell アクセラレーテッドコンピューティングのサポートなどが発表された。

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末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)
フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。
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