米国・公共機関のキーマンと考える、AIの進化との付き合い方──自律的であっても人間の確認は不可欠
「AWS Summit Washington, DC」セッションレポート
人口急増に対応するテキサス州、専門組織を組成し官民で連携
もう一つの注目セッション、「The AI (r)evolution: Meet the trailblazers transforming public service(AIの進化──公共サービスを変革する先駆者たち)」では、AWS 連邦問題担当ディレクターのOlivia Igbokwe氏をモデレーターに、米国財務省 チーフAIオフィサー(CAIO)のParas Malik氏、テキサス州 チーフインフォメーションオフィサー(CIO)のAmanda Crawford氏、Anthropic 国家安全保障責任者のTarun Chhabra氏が登壇し、AIを活用した公共分野の変革と、官民パートナーシップのあるべき姿について議論した。
米国財務省のMalik氏は、AI活用の根本的な意義について「AIは政府による価値創造のあり方を変革する。サービスの質と運営効率を高め、チームがより迅速に行動する力を与えるでしょう」と述べ、単なるデジタル化を超えた変革の重要性を強調した。
テキサス州のCrawford氏は、AI推進のための組織的基盤整備の成果を説明。同州議会で可決された法案によって「私が所属するDIR(テキサス州情報資源局)内に人工知能(AI)部門が設立され、人材と資金の両方が提供された。これは州議会においては珍しいことだ」と述べた。この取り組みの背景には、州が直面する切実な行政上の課題があるという。Crawford氏は、「テキサスの人口は劇的に増加しており、恐らく3100万人に達するだろう」と話し、急増する人口に対応するためにAIによる効率的かつスケーラブルな行政サービスが不可欠であることを強調した。
官民パートナーシップについて、AnthropicのChhabra氏は、AI分野の特殊性を指摘。「AIのイノベーションの多くが政府の外からもたらされる」と述べ、「フロンティアAIラボやAWSのようなハイパースケーラーが政府と協力し、密接なパートナーシップが必要」と訴えた。
成功するパートナーシップの条件について、Malik氏は明確な指針を示す。「私が見た最も効果的なパートナーシップは、テクノロジーそのものよりは、私たちが解決しようとしている問題そのものに焦点を当てているものだった」と述べ、目的を明確に定めることが、信頼とイノベーションを生み出す上で重要であると説く。
Crawford氏は、テキサス州の実践的な官民連携モデルを紹介した。DIRの体制は350人弱ながら、「約70億ドル規模の調達・サービス業務を処理している」と述べる。これは、DIRが「CIOがブローカー(仲介人)として機能するタイプ」のモデルを採用しているためであり、「AWSや会場にいる多くの企業のようなパートナーシップに取り組んでいる」と説明した。このモデルの核となるのは「(企業や機関の)バッジをドアに置いて、テーブルを囲んで座る」という点。通常は競争相手となる民間組織であっても、「奉仕という公共のミッション」のために、企業の垣根を超えて協働することの重要性を力強く訴えた。
Chhabra氏は国家安全保障におけるAI活用と民主的価値観の整合性について言及する。「AI競争で中国に勝つことは重要だが、価値と完全に整合した方法で行う必要がある」と述べ、特に「国内監視の応用は十分に議論されていないAIリスクの一つ」として、民主的価値と市民の自由を維持しながらAIを活用する課題を提起した。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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