ラクスが目指す「クラウドネイティブ・オンプレミス」とは?
着実にインフラ基盤を拡充させてきたラクスは、2022年頃からコンテナ化にも着手している。それまで主力サービスのシステムアーキテクチャは、いわゆるモノリシックであり、コンテナ化には改修コストが大きくかかると考えていた。また、BtoBサービスのため、夜間メンテナンスが常という状況もあり、コンテナ化の緊急性が低かったという。
転機となったのは2019年頃、AWSでの新サービス立ち上げを試験的に行った経験だ。「開発チームで新たな技術を使いたいというニーズが高まり、コンテナを使ったマイクロサービスアーキテクチャを試すことになりました」と公手氏。特に、“移植性”の観点から大きなメリットを確認できたとして、2019年以降、新たなサービスはコンテナを用いて開発する方針となった。公手氏は「全部置き換えていこう、クラウドネイティブに移していこう、というムーブメントにつながりました」と話す。
こうした経緯から生まれたのが、同社が掲げる「クラウドネイティブ・オンプレミス」という概念だ。公手氏はこれを次のように定義する。
「単に物理サーバーを増やしていくのではなく、現在のSaaSアプリケーションで基本となっているクラウドネイティブ技術、コンテナやマイクロサービスといった技術的な恩恵をパブリッククラウド環境ではなく、自前で構築した環境で享受することです。実際にKubernetesをメインとした『クラウドネイティブ・オンプレミス』のインフラ基盤を構築しています」
この戦略の根底にあるのは、“経営合理性”の追求だ。「オンプレミスにこだわっているわけではありません。あくまでもコストや経営的な合理性を考えたとき、パブリッククラウドに移行しないほうが良いという判断です」と公手氏は強調する。

同社の顧客特性も判断に影響している。経費精算システムは、年末年始のように多少負荷がかかる時期はあるものの、それ以外は処理が集中することもなく、負荷の増加もある程度予測しやすい。そしてターゲットは中小企業(SMB)が中心であり、大規模なエンタープライズ企業の場合は専用環境で対応できる。だからこそ、需要の傾向、将来的な増加の見通しが立てやすく、適切なリソース設計につながっているという状況も、オンプレミス環境の効率性を支えているという。
もちろん、コストの比較についても継続的に検証を行っている。「パブリッククラウドでは『コストを下げられる』と言いつつも、マネージドサービスでロックインされていき、コストが上がっていくような状況です。まだまだ、現状の運用のほうが安いという試算結果が出ています」と公手氏。ただし、「仮にそれが逆転したら、われわれもオンプレミスにこだわる意味もないため、パブリッククラウドを積極的に使っていくことになるでしょう」とも話す。
実際、とあるサブシステムについては、AWSを使ったほうがメリットがあると考えて利用している。また、AIの学習処理など、GPUリソースが必要な場合にもパブリッククラウドを用いるなど、適材適所での使い分けも始まっているとのことだ。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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