なぜSalesforceはSlackを全てのAIの起点にするのか ── 「エージェンティックOSとしてのSlack」戦略とは
「Dreamforce 2025」現地レポート
究極のゴールは「Lightningへのログインを不要にすること」
Salesforce製品のうち、既に、営業、ITサービス、Tableauでのデータ分析、HRサービス分野でSlackファーストが実現しようとしているが、この再構築は始まったばかりだ。続いて登壇したパーカー・ハリス氏は「今後、すべてのクラウドアプリケーションがSlackファーストになる。Salesforce Lightningを作ったのは私だが、Lightningにログインする必要がなくなるかもしれない。そうなったらうれしい。それが私のゴール」と語っていた。
元々、Lightningは、それ以前のSalesforce Classicに対する顧客からの不満に応える形で開発され、2015年10月に一般提供開始となったUIデザインである。当時の最先端であったレスポンシブデザインを採用したUIで、すべてのデバイス(デスクトップ、タブレット、スマートフォン)で一貫したユーザー体験を提供することを目指した。Lightningは標準的なUIとして定着しているが、Slackファーストへの転換は、今後のエージェンティックAIの台頭とその影響を見越してのことだろう。
AIエージェントは自分で計画を立て、必要に応じてデータを参照し、自律的に複雑なタスクを遂行できる。ビジネスアプリケーションのユーザー体験は大きく変わる。たとえば、営業がSalesforceで取引をクロージングさせる業務は、Slackで誰かと会話するのと同じくらい簡単であるべきだ。ここで営業が得られる価値は営業に限らず、企業を構成するすべてのチームが同じように得られるべきものだ。Salesforceの画面に移ることなく、Slack内で会話をベースに業務を完結させる。それがSlackファーストの目指すゴールである。
新しいSlackの画面には「Today」ビューができた。自身のカレンダーと連携しているので、1日の始まりにSlackを起動すると、何をするべきかがわかる。また、「Agentforce」ビューに切り替えると、自分の業務をサポートしてくれるAIエージェント群も確認できる。その役割は設定で拡張でき、質問に回答してくれるAIエージェントもいれば、プロアクティブに動いて業務をサポートしてくれるAIエージェントもいる。24時間365日対応のAIエージェント群をうまく活用することで、自分の業務の成果をスケールできる。
ゼロから始める必要はない。「Employee Facing Agent Templates」をAgentforceでカスタマイズしてSlackに展開すれば、すぐにAIエージェントを利用できるようになる。また、「Channel Expert Agent」も提供している。これはヘルプチャンネルのようなもので、あらゆるSlackチャンネルで常時稼働し、よくある質問への回答や情報検索と、場合によっては人間のメンバーへの引き継ぎまでしてくれる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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