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SaaSの価値は「記録」から「アクション」へ:ServiceNowが誇る“ワークフロー提供者”の勝算

CTOが指南する、エージェンティックAIの適切な統制アプローチ

エージェンティックAI活用に向け乗り越えるべき3大課題

──エージェンティックAIが今後ますます企業の中で活用が進んでいくとき、企業にはどのような障壁があるのでしょうか。

 3つの課題があります。1つは、エージェンティックAIが従うべきルールを規定したドキュメントの整備です。エージェンティックAIを適切に活用するためには、エージェンティックAIが参照する情報を記載したドキュメントが必要ですが、世界の企業が保有している膨大な規程類には一貫性がないことがほとんど。大規模なAIソリューションを導入する前に、データ、ポリシー、そしてナレッジを整備する必要があるといえるでしょう。

 2つ目の問題は、組織のチェンジマネジメント。企業がAIを導入するにつれて、その企業で働く人々の働き方も変わっていくため、その時々に応じた再教育や組織変革が必要になります。このように、ビジネスのやり方を大きく変えるときは、変わり続ける環境でも従業員が仕事を続けられるように、チェンジマネジメントに投資する必要があるのです。

 そして3つ目の問題はセキュリティです。これまでの自動化では、設計時に制御が組み込まれているため、その動作は信頼できるものとされてきました。ところがエージェンティックAIは、悪意のある人物がAIにすべきではないことを実行させるサイバー攻撃が可能です。この対策として、人間に適用するのと同様の制約をAIエージェントにも課す必要があるでしょう。加えて、AIエージェントが期待通りに動作していることを確認するためのモニタリングや監査も必要になります。

エージェンティックAIには人間と同じルールを課すべき?

──1つ目のドキュメントの整備に関する問題について、技術的な制御と非技術的な制御の両方が必要になりますか。

 両方の組み合わせが可能でしょう。エージェンティックAIの優れた点の一つは、人間向けに作られたルールに基づいて同じように動作できることです。たとえば、「予算が1,000ドル未満で、2社以上の顧客訪問の出張の場合は、これを許可する」というポリシーがあるとします。グローバルに展開している企業では、そのポリシーを多くの言語で記述することが必要になりますし、各拠点の法制度に準じて異なる複数のポリシーを運用しなければいけません。

 たとえば、グローバル企業の社員が、子供が生まれたので、産休をどのぐらい取れるかを調べようと考えたとします。この場合、企業共通のポリシーがあるわけではなく、それぞれの国の法制度に準じた複数のポリシーを運用しています。日本で働く従業員が問い合わせをしてきた時、「これは日本のポリシーです」と明記しておかなくては、AIはどのポリシーを適用するべきかわからなくなってしまう。AIが正しく回答できるように、規程類に見分けのためのマークを付けることは、まだ十分には行われていないのです。

──課題の3つ目に挙げられたセキュリティについては、今後の活用が進むにつれて、より深刻な問題になりそうです。

 AIを用いて、企業のデジタルスペースに侵入しようとする人たちが出てきている一方で、AIに本来すべきでないことをさせようとする人たちもいる。AIが攻撃手段に使われるリスクの認識は高まってきているものの、全体で見るとそれほど多くはないかもしれません。

 良いニュースがあるとすると、人間とは不完全な存在であることを社会が理解していることです。人間は騙されるし、誰かにそそのかされて悪事に手を染めることもある。だからこそ、不完全な人間ばかりでも、社会が機能するようにルールやポリシーを定めて運用しているわけです。AIには人間に適用するものと同じルールやポリシーを適用するべきだと考えています。

競合にはない「単一プラットフォーム」と「ワークフロー」の強み

──3つの問題に対して、ServiceNowはどうアプローチしますか。AIプラットフォームとしての戦略と優位性を教えてください。

 ServiceNowの強みは、単一のプラットフォームであることです。我々の競合の多くが、プロダクトごとに異なるテクノロジースタックを採用しているのに対し、当社は製品ポートフォリオ全体で同一のテクノロジースタックを採用しています。たとえば、人事の案件管理を支援するAIエージェントを追加すると、ITの案件管理にも同様のAIエージェントを追加するのは難しくない。なぜならば、これらは同じテクノロジーを利用しているからです。

 また、もう1つの優位性を挙げるとすると、私たちがワークフローツールを提供する会社であることです。ワークフローがServiceNow内に存在するので、ワークフローがどこに存在するかを把握しなくてはならない外部テクノロジーを使うよりも、ワークフローの自動化を簡単に実現できます。また、外部システムにあるワークフローの自動化も容易です。ServiceNowは、ユーザーにとってワークフローを自動化する「簡単で便利な環境」を提供できます。

──では、AIプラットフォームとして提供している企業とのServiceNowの差別化要素はどこにありますか。

 競合をどこと捉えるかで状況は変わりますが、たとえばAWS、Google Cloud、MicrosoftのようなAIプラットフォームは、顧客がそのプラットフォーム上にアプリケーションを構築しなければなりません。ソフトウェア開発の専門知識がユーザー側に蓄積されている場合は問題ないのですが、実際にはそのようなケースは少ないので、現実的な選択肢とはいえないでしょう。

 たとえば、ワークフローを実行するためにはワークフローシステムが必要ですが、果たして企業はそれを独自に構築することを選ぶでしょうか。我々はAIのインフラレイヤーではビジネスをしていませんが、アプリケーションとビジネス成果を提供するベンダーとして、管理ツールの提供を通して企業のワークフロー自動化を支援できます。

 つまり、顧客の業務をより効率的に実行できることが、ServiceNowの提案できる価値です。私たちには、これまで培ってきたワークフローに関する専門知識と顧客の業務への深い理解という強みがあります。この強みを活かし、私たちがワークフロー構築に優れていて、既に約1万社に導入実績があること、そしてAIを追加することを通して、ワークフローの効率化をサポートできることを、新しい顧客にも訴えていきたいと考えています。

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SaaSは死んでいない? エージェンティックAIは脅威ではなく“チャンス”

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

竹村 美沙希(編集部)(タケムラ ミサキ)

株式会社翔泳社 EnterpriseZine編集部

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