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『EnterpriseZine Press』

2025年夏号(EnterpriseZine Press 2025 Summer)特集「“老舗”の中小企業がDX推進できたワケ──有識者・実践者から学ぶトップリーダーの覚悟」

特集:年末特別インタビュー

【特集】CIO/CDO/CTOの6人に聞く、“岐路の一年”で得た手応えと展望──データ活用は次の段階へ

2025年末特別インタビュー:「ITリーダー」編

全社のデータ集約基盤を構築、“先に仕掛ける”経営へシフト(ライオン 中林紀彦氏)

 2025年は、デジタル戦略部として、デジタル戦略を立案しスタートさせた“新たな年”でした。当社は2030年に向けた経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を掲げています。本年より始動した中期経営計画「Vision2030 2nd STAGE」では“収益力の強靱化”をテーマにしており、達成に向けてデジタル戦略を立案し、スタートさせました。

 デジタル戦略は3つの骨格で構成されています。

  • データドリブン経営のためのデータ基盤の構築
  • オーラルヘルスケア拡大のためのデジタル基盤構築
  • DXの民主化によるオペレーショナル・エクセレンス

 2025年特に注力したのが、「データドリブン経営のためのデータ基盤の構築」です。全社のデータを集約する基盤として「LION Data Platform」を構築し、これまで個別システムごとに分散・最適化されていたデータを統合しました。さらにそのデータを活用した経営管理ダッシュボードで、経営指標の可視化とモニタリングを開始しました。これまでの勘と経験に頼った意思決定から、データに基づいて未来を予測し、“先に仕掛ける”経営へのシフトに着手しました。真の“データドリブン経営”の始まりです。

 2026年は、“DXの民主化”をさらに推進します。「LION Data Platform」をグローバルに拡張し、各国・エリア・各事業の変化を高い解像度で捉えるものに仕上げていきます。経営管理ダッシュボードにとどまらず、全社員が同じデータにアクセスして高速に仮説検証できるデータの民主化を一気に進めます。

 こうしたデータの民主化に加えて、本質的なデジタルトランスフォーメーションをさらに深く追求していきます。単なるテクノロジーやデータだけでなく、ビジネスプロセス・意思決定プロセス、そして組織文化そのものをアップデートする覚悟を持って取り組みます。

 生成AIを含む最新テクノロジーの民主化も進め、アイデア創出から業務プロセス変革まで、人・データ・AIが補完し合うことで非連続な変革を遂げていきます。

ライオン株式会社
執行役員 全社デジタル戦略担当
中林紀彦氏

日本アイ・ビー・エム株式会社においてデータサイエンティストとして企業の様々な課題を解決。その後、株式会社オプトホールディング データサイエンスラボ副所長、SOMPOホールディングス株式会社チーフ・データサイエンティスト、ヤマトホールディングス株式会社の執行役員を歴任し、2024年4月にライオン株式会社の執行役員に就任。全社デジタル戦略担当としてグループ全体のIT・デジタル・データに関する戦略立案と実行を担う。

“挙手制”によるカルチャー改革で、誰でも挑戦できる風土を醸成(マルハニチロ 古田昌代氏)

 2024年から社員が主役の「カルチャー改革」を掲げ、多くのプロジェクトを立ち上げ、社員の手挙げ制(公募)によるメンバーで推進しています。自身を超え、組織の壁を超え、そして社外の方々と縦、横、斜めの関係性を築くことで、挑戦と共創に取り組んでいるところです。

 それらの活動の一つである「当社専用のChatGPTの構築分科会」は社内功労賞を受賞しました。これはシステム担当ではない、事業部門の若手メンバーが中心となり、まず、その必要性の有無から検討を始めました。今の業務をどのように変えたいのか、コンテンツを試作し、活用事例の説明会を重ねてスピードよく社内展開した成功体験となりました。現在では、セキュリティも十分配慮した環境に軌道修正をし、グループ会社にも展開し、あっという間に業務適用につながりました。社員がAI技術の進化を体感し、変化への気づきとなる一石二鳥以上の効果です。そのほか、今の仕事がAIに置き換わると「今まで実施してきた業務が無くなるのではないかという危機感」にもつながり、改革の意味を理解する機会となりました。

 また、データドリブン経営を実現するための設計を繰り返し行っています。財務/非財務データなど歴史ある多種多様なデータをつなげ、これまで見えていなかった世界を社内へ共有することを目指しています。Tryしようとする行動につなげたいという想いで取り組んでいます。財務データはレガシーシステムからの移管のため、コード体系の整備、非財務データとの多次元の結び付けに向け、鋭意設計中です。挑戦と共創という思いを持ち、システム部門が設計、関連部門へ提供し、対話を繰返す、アジャイル型で進めています。これは「失敗を許容する」という社内風土の改革にもつながっています。

 2026年度の目標は、経営者が、今まで以上にデータドリブンによる意思決定ができるようなシステムを構築することです。ハードルは高いですが、新たな気づきが起こせる多次元データの構築に向かって進んでいきます。

マルハニチロ株式会社
執行役員
古田昌代氏

マルハニチロのシステム子会社に入社、マルハとニチロのシステム統合等を実践。
マルハニチロへ転籍後、総務部やDX推進部を経て、現在の執行役員に至る。
データドリブン経営による陣族な経営判断の実現を目指し、DXを中心としたカルチャー改革や人的資本経営を推進中。
関連記事:マルハニチロは『Umiosへ──次の100年に向けた「カルチャー改革」の波に乗って変わり続ける

全員参加型で「DX銘柄」に初選定 2026年から「DX2.0」へ(コスモエネルギーホールディングス ルゾンカ典子氏)

 2025年は、全社的なデータ活用が「見える化」から「分析・改善」へ進展しました。DX Hub案件は質を高め、AI実装を求める内容に変化し、製油所の効率改善や業務自動化など、現場課題解決型の事例が拡大しました。人材面では、データストラテジスト・データサイエンティスト・データエンジニアの役割を軸にデータ活用人材育成が進み、3年間で目標としていた900名を2年で達成。Databricksを中心としたAI-Readyなデータ活用環境構築やBIツールの習得・活用が進み、現場でのDXの結果が実を結び始めました。さらにデジタルプラント化も進み、予兆保全も実装化され、DXの成果が社内外に見える化されました。このような全員参加型のDX、成果の見える化、データ活用人材育成などにより、DX銘柄2025にも選定されました。

 2026年の展望としては、コスモエネルギーグループの「DX2.0」へ進化し、生成AIとデータ活用の融合が鍵となります。AI-Readyなデータ戦略を推進し、特徴量設計や生成AI連携による意思決定自動化を目指します。チェンジマネジメント、全社データプラットフォーム統合、リアルタイム分析基盤構築、サイバーセキュリティ強化も重要です。人材はAI・データと業務知識を兼ね備えたハイブリッド型へ進化し、生産性向上を目指した大型プロジェクトを加速します。

 データ活用は、単なる効率化ではなく、ビジネスにおける差別化要因。経営層には、データ基盤・人材育成・AI活用の三位一体投資を提言し、生成AIとデータ活用による意思決定のスピードと生産性向上を「全員参加型DX」で推進します。2026年は、生成AIとデータ活用で意思決定を革新する年です。

コスモエネルギーホールディングス株式会社
常務執行役員 CDO
ルゾンカ典子氏

米国にて心理学博士号を取得後、大手自動車保険会社のR&D部門にて顧客・商品分析を担当。 帰国後は外資系金融機関にて、ビジネスアナリティクス部門の立ち上げを主導し、データ活用によるデータドリブン経営の推進に貢献。 2021年11月よりコスモエネルギーホールディングス(株)のCDOに着任。 ブランド価値や顧客体験(CX)の向上、DX人材の育成、統合データ基盤とAI活用を融合させた経営基盤の構築に尽力するとともに、スピード感あるイノベーションを実現するチェンジマネジメントを強化し、サステナブルな組織づくりを推進。これら取り組みの牽引により、2025年のDX銘柄選出へ寄与。
関連記事:コスモエネルギーHD ルゾンカ典子×テックタッチ 井無田仲──データドリブン経営の源泉は、多様な仲間

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