接客現場でAI実用の先陣を切る──「JINS AI」スピード開発から旗艦店で実装まで1年間の軌跡
第47回:株式会社ジンズ グローバルデジタル本部 ITデジタル部 事業基盤課 黒尾玲奈さん
AI応対で“JINSらしさ”を追求──親しみやすさより、正確さ
酒井:「JINS AI」に、店舗出身メンバーの知見は、どう反映されたのでしょうか。
黒尾:最も象徴的なのは人格定義です。AIチャットも、お店に立つ以上は店員の一人。だとしたら、JINSらしく振る舞ってほしい。そこで現場を経験したスタッフを交えて「JINSらしい言動とは何か」を定義し、プロンプトとして組み込んでいきました。
拠りどころにしたのは、店舗スタッフに配っているマニュアルです。そこにある受け答えや装いの指針をたどっていくと、「過度にフレンドリーだったりファッション性に寄りすぎたりしない」と輪郭が見えてきました。メガネは医療機器の側面もあり、そこで求められるのは正確さや誠実さ。だから絵文字は多用せず、むしろ医療者に近い振る舞いがいい。そんな議論を重ねました。ジンズが行動姿勢として掲げる「Honest」も、きちんとAIにインストールしたかった要素です。
今では逆の流れも生まれています。AIのために定義した人格のエッセンスをマニュアルに反映して、スタッフの解釈がぶれない共通認識づくりに役立てているんです。
酒井:ハルシネーションなど、リスク面の対策はどうされているんですか。
黒尾:基本的に、店舗のスタッフが言わないことは言わないようにしました。たとえば、競合他社について質問されても、スタッフらしく振る舞えるようにチューニングしています。ただ、答えられる範囲を絞りすぎると副作用も出ます。当初、質問をメガネ関連に限定したところ、コラボ先のブランド名が入った質問に答えられなくなってしまいました。そうした発見のたびに調整していきました。
酒井:銀座店での本番運用を3月に開始して、その後の成果はいかがですか。
黒尾:銀座店に導入したのは、「JINS AI」のチャットと、改良の過程で新たに開発した「レンズ診断」と「メガネの似合い度判定」の機能です。それぞれで成果が出ました。チャットを使った方のNPSは、使っていない方より約9ポイント高かったんです。
レンズ診断は、売上への効果が明確に出ています。レンズはフレームと違って、そもそもどんな種類があるのか知っている方が少ないんですよね。そこで接客の流れの中で診断をご案内し、事前にニーズを入力して目星をつけてから、店員と話せるようにしました。「客観的に選んでもらえた」「納得感を持って買えた」という声をいただいています。
社内の反応も変わっていきました。当初は「AIが応対するって、使ってもらえるイメージが湧かない」という声も結構あったんです。それが、1年の試行錯誤で回答精度が上がるにつれて「このユースケースなら使えるね」に変わっていった。売上にも一部貢献できて、最後は「作ってよかったね」と言ってもらえるようになりました。
社内でよく話すのは、「AIは人を代替するものではない」ということです。人に相談したい方には、これまで通りスタッフがいる。AIはその手前で、ちょっとした疑問の解消や候補の絞り込みを受け持つ。そうすれば人手不足や育成の負担を補えますし、スタッフは人にしかできない深い相談に集中できます。オンラインでほぼ選び終えて、店頭には試着だけしに行く──そんな買い方も、もっと自然になっていくはずです。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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