日本の方法を守りながら新しい国際標準を作っていく
--日本国内で進められてきたプロジェクトマネジメントの動きと国際標準化についてどうとらえたらいいのでしょうか。
日本のプロジェクトマネジメントは短く見ても10年ほどの歴史があります。そしてここ5年くらいで成果が出てきています。PMを進めている分野も、いままで建設系が中心だったところへ、IT系が力を入れて取り組んできています。PM学会はIT系が中心ですので、この会員が増えていることはIT系における注目の高さが見えると思います。あと、食品や薬品といった分野の会社にプロジェクトマネジメントが導入されてきています。
国際標準化における日本の主張は、これまで日本の企業が作ってきたものとそう大きな齟齬がないように国際標準を落ち着けたいということです。消極的な理由としては今までのものを守りたいということはあります。また、海外との関係でいうと、物を作ることができるということは、国際競争においてそう重要ではなくなってきています。物を作る過程をどうコントロールするか、約束を守る技術が重要になってきている。それが国際競争力で大きな要素になっています。もしいままで日本がやってきたことと大きく違うものが国際標準になることは、日本の産業界にとってマイナスになるはずです。現在、日本で取り入れられているプロジェクトマネジメントと大きく違わない標準にしていくことが私たちの立場です。
日本は用語の統一を提唱
--PMの標準化を進める上で立場によって意見の相違はあるのでしょうか。
プロセスの考え方は大事ですが、そこについてはそう大きな意見の差はありません。PMBOKの影響を大きく受けていることがありますし、ヨーロッパを中心としたIPMAがやっているICBが大きな流れとしてあるため、大方のところでは合意できるところにきています。
標準化についての意見の相違としては、1つは用語ということがあります。プロジェクトマネジメントがなぜ重要かというと、いっしょに仕事をするときに言葉が合わないとまずい、プロトコルが合わないのはまずいですね。もうひとつは契約するときに言葉が合わないとまずいですね。日本の主張としては、用語のところも充実させて契約の時に国際標準のもとでスムーズにいくようにという狙いがありました。
しかし、今回の標準化はPC236ということでTC(より詳細な標準を決めるテクニカルコミッティ)ではないんですね。これは軸になる標準を短期間で作り上げましょうという狙いがありました。用語の部分はISO21500を読むために必要な用語だけになったのです。そのため非常に簡易な用語集になっています。これからも用語についてより充実させるよう努めていきますが、ほかの規格でも用語は別の場でまとめていますので、ISO21500発行以降の問題になると思われます。
もうひとつはコンピテンシ―を入れるか入れないかということがありました。コンピテンシ―は何かということより、コンピテンシ―がプロジェクトマネジメントを推進する上で必要なんだということをどう取り込ませるかということがちょっと大変でした。これについてはいろいろ話し合いがありましたが、規格の中にコンピテンシーが入っていますから国内委員会としての目的は達成したかなという思いがあります。
PMBOKとICBの違い
--PMの国際的な流れとして、米国を中心としたPMIのPMBOKとヨーロッパを中心にしたIPMAのICBが知られていますが、この2者の違いについてどう考えたらいいのでしょうか。また、国際標準化されることでPMP資格への影響はあるのでしょうか。
基本的に大きな違いはないと考えていいですね。PMBOKは知識エリアをまとめたもので、PMIは他の体系も作っていますから全体として同じようなものになります。そこでPMBOKだけを見たときはプロジェクトマネージャが必要な知識をまとめたということになります。ICBのほうは最初からコンピテンシ―の重要性をいっていますので、ICBの資格は上位のものは大学院の博士課程と連動していて、研究とプロジェクト実習を半々の比重で行っているということがあります。全体でみるとICBのほうが現場指向、問題解決指向といえるかもしれません。
今回の国際標準化でベースになっているものはPMBOKでもICBでもありません。イギリスのBS6079なんです。実際にはユーザー人口でいうと、PMBOKとICBが多いですからその要素がずいぶん取り込まれています。PMBOKやPMP資格については、PMIの戦略があることですから実際のところはわかりませんが、標準化が進んだからといってPMIが困ることはないんじゃないですか。PMBOKの必要性に影響があるとは考えられません。