地域企業の自立の道を求めて
千葉県情報サービス産業協会(CHISA)は1998年に任意団体として設立され、3年後には社団法人となっている。現在は、正会員103社、賛助会員18社で、正会員のうち65パーセントが30名以下の企業規模であり、「中小のソフトウェア企業の集まり」(藤井氏)という特色を持っている。業務系システムの受託が多いが、ユーザー企業からの直接の受託は少なく、東京などのSI企業からの受託業務を行う企業が多くを占めるという。
CHISAがプロジェクトマネジメントに取り組むきっかけとなったのは、2004年に経済産業省が実施した「地域ITプロフェッショナル人材育成基盤構築事業」に応募したことだった。「産学官が共同で提案する形で、CHISAと千葉工業大学、そして千葉県が共同で取り組みました。千葉工業大学はPM学会副会長の関先生がいた大学で、日本で一番最初にプロジェクトマネジメント学科を開設したところでした」と藤井氏はふりかえる。そのときにテーマとなったのが、「契約(調達)管理に必要な実践的プロジェクト管理手法(WBSとEVMの適用)だった。
そもそも、そのような形でプロジェクトマネジメントに取り組んだのは、CHISAの会員企業が「将来的に自立する道を探るためには、ユーザ企業をつかまなければならない、そのための信用を得る手段としてプロジェクトマネジメントに取り組むということになった」(藤井氏)のだった。「技術としては東京の企業と比べても遜色のないものを持っていますが、企業規模が違うということで大企業ほどユーザーからの信頼を得られないという状況があります」(藤井氏)というのが実態だからだ。
この基盤構築事業において、当時、千葉工業大学に在籍していた関氏と堀内氏にプロジェクトマネジメントを習得するためのカリキュラム作成が依頼された。それに基づいて、カリキュラムの実証のためにその年の秋にはプロジェクトマネジメントの研修を行われた。これは、CHISAの会員だけでなく、県や市の職員も参加する形態であった。
それ以降、プロジェクトマネジメントの研修は毎年実施されてきた。その結果、受講者が昨年までで126名になったため、今年の2月に過去の受講者に集まってもらい、その後自社内でどのようにプロジェクトマネジメントを実践してきたかという発表会を開催するまでになった。
毎年実施することで確実に変化が見られる
CHISAのプロジェクトマネジメント研修は、多くのPM研修と同様、PMBOKを主体にしたものだが、ただ講義を受けて自社にもどるだけではない特色がある。「1泊2日の講義があり、そのあと自分の会社に戻ってから学んでもらったことを実践してもらうことになっています。そして、1カ月か2カ月後にその実践についての報告をしてもらうことになっています。『1泊2日プラス1日』と呼んでいます。報告の時には上司の方、経営者の方にも参加してもらっています。みなさんあとで報告しなければならないというので、真剣度が違うと思います」(藤井氏)。
CHISAでは、技術系、業務系、ヒューマンスキル系など43コースの研修を実施しているが、プロジェクトマネジメント系は9コースあり、「1泊2日プラス1日」の研修はそのうち「プロジェクトマネジメント概要と実践研究」について行われている。年1回、20数名規模の研修ではあるが、毎年着実に実施していくことでさまざまな効果がでてきているという。
「私はここに来て10年目になりますが、プロジェクトマネジメントに対する経営者の方の考え方はずいぶん変わりました。当初は、研修には人は出さない、プロジェクトマネジメントは発注側の企業がやるものだという意識の経営者も少なくなかったのですが、最近ではしっかりしたプロジェクト管理をしないと信頼を得られないという意識に変わってきています」(藤井氏)という意識変革としてあらわれてきている。ここ数年は、PMPなどPM資格の取得への関心も高まっている。
「受講者の発表を見ていましても、たとえばISO9000をとっているような基盤を持っている企業では発表内容が違うんですね。また、継続して受講者を派遣している企業ではだんだんとプロジェクトマネジメントの知識を持った社員が増えてくる、それによって発表を聞いていても、レベルの向上を感じることができます」(藤井氏)。研修を受けることによって、標準を取り入れている現状が見えてくる。また、研修を受けた人材が増えることによって企業全体の意識が高まっているとみることができる。
最近では、「民間でできることは民間で」という流れによって、かつての補助金がなくなったり、研修施設が閉鎖になったりと、研修の運営には困難な条件も増加している。しかし、それを乗り越えて研修を継続することによって確実な成果をあげていく方向性が感じられた。