“武闘派CIO”からバトン受け継ぐ、コープさっぽろの新・デジタル推進本部長が語る「IT民主化」の手応え
第49回:コープさっぽろ 執行役員 デジタル推進本部 本部長 中内愛さん
4ヵ月の組織内留学で「ITの民主化」進む──現場自走のアプリ開発
酒井:長谷川さんが2024年から掲げた「ITの民主化」は、どう受け継がれていますか。
中内:基幹システム周辺の業務を中心に、ローコード・ノーコード、今は生成AIも使いながら、自分たちの手で改善していく取り組みを続けています。
育成の柱は2つ。一つ目が、職員・パート・アルバイトなら誰でも参加できる学習会で、年16回、各回完結型で開いています。二つ目が、組織内留学制度です。4ヵ月間、本業を離れて本部に“留学”してもらい、AppSheetや生成AIを学んでツールを作る。現場に持ち帰って効果測定まで行い、発表会で成果を共有します。8期生まで含め、87名(2026年7月10日時点)が参加しました。
酒井:4ヵ月も現場が人を送り出してくれるのは、すごいことですね。
中内:そこは理事長のトップダウンの力が強いと思います。労働人口の減少やサービスの維持を考えると、DXは避けて通れないと、2020年からずっと言い続けてくれています。上からの号令と、現場からの後押し。その両方があることが、とても大事なんだと思います。
酒井:現場発ではどんなアプリが作られているのですか?
中内:一つは、店舗の返品申請アプリです。入荷した商品が傷んで売り場に出せないとき、全店舗のiPhoneで写真を撮り、AppSheetで申請すると、仕入れ先が写真を見て返品対応してくれる。組織内留学で腕を磨いた方が作り込み、現場に持ち帰ってくれました。
もう一つは、灯油タンクの点検アプリです。灯油は冬の北海道に欠かせません。夏場に点検して冬に備えるのですが、異常があれば傷んだ箇所を写真で記録し、パーツ交換の見積もりにつなげる。開発した方は生成AIも使い込んでいて、「AppSheetでは耐えきれなくなったので、次はネイティブアプリを作ります」と、もう動き始めています。
ローコードについては、私たちデジタル推進本部はほとんど手伝わず、現場に自走してもらっています。手を貸すのは、基幹システムに関わる部分くらいです。
酒井:めちゃくちゃ進化していますね。こうした現場の頑張りは、どう評価されているんですか。
中内:改善事例は、月次の全体定例で共有されます。困りごとを分析して打ち手を検証する「仕事改革発表会」でも、デジタルを活用した事例が共有されるようになりました。年に一度の理事長賞は、業務改善が対象なんですが、以前は「システムを導入して楽になりました」が多かったところに、「自分たちで作ってみました」という事例が増えてきて、明らかにフェーズが変わったと実感しています。
発注システムの“失敗”で感じた、丁寧に進めることの本質
酒井:現場で本当に使われるシステムにするために、中内さんはどんなことを意識していますか。
中内:直近で発注システムを入れ替えたのですが、現場の巻き込みや要件定義不足から、関係者にご迷惑をおかけしました。現場の要望や業務プロセスに合わせて調整すると、事業所ごとに個別の作業が増えて、全体の標準化がしづらくなる。かといって、IT部門の理屈だけで押し切ってもうまくいきません。大事なのは、業務のやり方をきちんと理解した上で、「この作業は他と一緒にできませんか?」「いっそ廃止して、やり方を変えませんか?」と一つずつ、業務の始まりから終わりまでが一本の線でつながるように持っていくこと。その大切さを痛感しました。
酒井:具体的にどんなことに苦労したのでしょうか。
中内:丁寧に進めるという肝心な部分を、私がメンバーに対して具体的に目的や行動に落とし込めていなかったんです。任せたつもりになって、できているかどうかを一緒に確かめることも後回しにしてしまった。その結果、現場にとって「言われたからやるけれど、これは本当に私たちのことを見て作ってくれたの?」と疑問符がつくような形で初回リリースを迎えてしまいました。
今は次の改修に向けて動いています。この教訓を活かして、現場の声を聞きに行けているか、一緒に直していくための説明がきちんとできているかをチェックしています。現場の皆さんも「より一層、丁寧にやらないと」と力を入れてくれています。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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