役員に命じられた賠償額は……発注側はベンダーの財務を見極めよ
ご覧の通り、ベンダーの役員には契約と開発について重い責任があり、場合によっては個人的な賠償を命じられることがあるようです。
今回、役員個人に命じられた賠償額は、前訴でベンダーに認容された損害9,406万円あまりのうち、一部請求分である1,000万円でした。全額ではなく一部にとどめたのは、恐らく役員個人の資力を見据えた現実的な請求額設定だったのでしょう。それでも1,000万円という金額は、多くの個人にとって決して軽い負担ではありません。これは、前述した会社法から導き出された結論かと思いますが、実際問題として、開発現場の実態からしても大きな問題提起ではないかと考えます。
システム開発には失敗がつきものです。納期遅れ、機能不全、プログラムや設定・設計・要件定義のミスなどにより、契約解除となるケースも珍しくありません。また、なんとか稼働までたどり着いても莫大な損害が発生してしまうケースはもっと頻繁に起こっているでしょう。その際、ベンダー側の財務が弱く、失敗が経営上の大問題に直結するとなれば、今回のように個人が責任を負うことになる可能性もありますし、それ以前に会社の存続も危ぶまれます。
一方、ユーザー側からすれば、発生した損害を取り戻せないのはもちろん大きな痛手です。つまり、ベンダーがシステム開発を受注する際、あるいはユーザーがベンダーに開発を発注する際には、ベンダー側の財務体質や規模をよく確認する必要があるということです。無論、そこには開発が何事もなく成功する場合に必要となる費用だけでなく、上手くいかなかった場合に持ち出しになる費用もある程度見込んで積んでおく必要があります。
そして、いくら魅力的な案件であっても、そのリスクをとれない案件ならベンダーはこれを直接受けることはせず、どうしてもやりたいならどこか財務的に余裕のあるプライムベンダーの下につくなどのリスクヘッジが必要ということです。そのあたりの見極めが、今回のベンダーと最終的にGOサインを出した役員には足りていなかったということでしょう。
これは発注者であるユーザー側にもいえることです。開発を発注するにあたり、単に技術力や実績があるかだけでなく、相手の規模や財務がプロジェクトの規模に対して妥当であるか、失敗したときにリスクをとれるベンダーであるかどうかを、ベンダー選定の際に見極めることが大切です。
今回の事件では、一部のみ請求とはいえ役員個人が1,000万円の賠償を命じられています。たとえ一部でも、これだけの金額を個人の資力で賄えるほうが珍しいのではないでしょうか。そんな事態になる前に、ベンダーという企業自身が責任をとれるかが、発注にあたっての最優先事項になるのではと考えます。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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