真のスマートフォンにはロボ交換手が不可欠です(ロボは週休2日です)
「ご隠居! ご隠居はスマートフォンには興味ないんですかい?」
「おや十六っつぁん。どうしたんだい、お友だち紹介キャンペーンの
頭数が足りないんでこの老いぼれにも高度な情報機器を
売りつけにきたかい」
「いやいやそうじゃねえんで、単にいま流行りのネタを
あいさつ代わりに振ってみただけですよ」
「そりゃなんともありがたい心くばりだね。
そうさなあ、その世間でいうところのスマートフォンとやらが
もうちょっと賢くなったら買ってみてもいいかな」
「それはどのくらいの賢さで……?」
「国際チェス大会でコンピュータを負かすとか」
「スケールがおかしいじゃないですか!」
「地球シミュレータ内蔵で来年の天気がわかるとか」
「そんなことが出来るようになった日にゃシンギュラリティが
五段構えでおっ始まって弥勒菩薩が見物にきますよ」
「なんかこう、あれだよ、超テクノロジーを所有してるっていう
感じがないとつまらないんよだなあ」
「そういいながら、ご隠居の電話はまだダイヤル式の黒電話じゃ
ないですか! せめてボタンのやつにしましょうよ」
「そと見だけで馬鹿にしちゃあいけないよ。この中にはそりゃもう
スーパーなテクノロジーが入ってるんだ」
「なんですか、ぜんまいコンピュータでも入ってるってんですか」
「そんなデッドテックじゃありゃしないよ。いいかい、この中には
中国語をしゃべれない12人の男が入ってるんだ」
「……へ?」
「この受話器に向かって話しかけると、中の12人が
分厚いマニュアルの指示にしたがって返事を組み立てて、
意味もわからないまんまそれを叫んで返す。
それでもって、まるで受話器の向こうにひとりの中国人が
いるみたいにやりとりができるってえわけだ。
問題は、中国語をしゃべれない12人の男たちが話す言語が
なに語なのかが誰にもわからんもんだから、中のやつら自体との
コミュニケーションがまったくとれないってことなんだな」
「そもそも、こんなに小さい、ただの黒電話ですよね。
このなかに12人入ってるってのは、いったいどういう……」
「十六っつあんともあろう者が、そりゃまるでテレビに人が
映ってるのをみて箱ん中に小人がいるって大騒ぎするみたいな
ナイーブな発言じゃあないか。そこは何らかの超テクノロジーが
介在してるとおもって納得するべきところだよ」
「……なんかだまされてるような気もするけど、で、続きは?」
「この仮想の中国人にいまは何年かと聞いてみると、これが
どういうわけか10年後の数字を答えてよこしたんだな。
驚きなのは、それから数ヶ月以内に起こる出来事について
きいてみたら、そいつが答えたとおりのことがその後実際に
起こったんだよ。なぜかはわからんが、こりゃ本当に未来との
通信が実現したのかもしれんと、研究所は大騒ぎになった」
「研究所?」
「ところが、そうこうしているうちにある日とつぜん、
中国人が「空に! 空になにかが!」と叫んだかと思ったら、
それっきり通話が途絶えちまったんだよ。博士はもう途方に…」
「ご、ご隠居! 外に! 空に!」
「えっ?」
「あれを!」
「……ほお……」
「…………」
「なるほどなあ」
「なるほどですねえ」
「茶がこわい」