菓子折りに ラビオリ詰めて 暮らしおり (詠み人知らず)
「先生、スイカは菓子折りに入りますかー?」
新米教師をおとしいれる意地悪な質問です。
果物だって水菓子とよばれるのだから
お菓子に含めてまったく問題はないはず、
しかし巨大なスイカをどうやって箱に入れるというのか、
切って入れようとすれば果汁が出てしまうのではないか、
そもそもスイカは厳密には野菜に分類されるものでは
なかったか、しかし「水菓子」という言葉が果物のみを
指すものであったかどうか当方のライブラリには記載がなく、
このあたりでロボット先生は頭部から激しく火を吹いて
生徒たちに強い印象を残し、ある意味で熱血教室とも
呼べる状況がそこに現出したのでした。
実際に謝罪の際にスイカを持参するケースでは、
土下座をしながら勢いよく頭を降り下ろして床に置かれたスイカを
粉砕するというパフォーマンスが主流になっており、
これは一般的にたいへん不評です。
さて、あらゆる不祥事を帳消しにする力があるという
究極の菓子折りを探すため、
社長は置き手紙をひとつ残して旅に出ました。
常識的に考えて、会社としてきわめて末期的な状況であり、
それ自体が取引関係各社に対する不祥事そのものでしたが、
社員たちはうろたえず、自分たちもまた速やかに全国へ散りました。
社長を探すためではなく、その伝説の菓子折りを
社長よりさきに手に入れるためです。
もちろん、正確には、彼らが探しているのは菓子折りではなく、
その菓子折りを製造する、小さな小さな工場でした。
長く苦しい道のりは字数の関係で割愛しますが、
社員たちがついに見つけたその菓子折り工場は、
野生のスイカの襲撃をうけて今まさに破壊される寸前でした。
厳密には野菜であると同時に敏捷な捕食動物でもあるスイカは
おもに砂丘に生息し、ときに民家を襲います。
幾重にも渦巻く緑のツルのなかに、社員たちはぐるぐる巻きに
された社長の姿を発見しました。
なすすべもなく瓦礫の山と化すかと思われた菓子折り工場は、
しかし突然シャッターを開き、あっという間にスイカを
すべて飲み込んでしまいます。
わしゃわしゃと咀嚼音が響き、ほどなく、裏のシャッターから
現れたフォークリフトが、一山の菓子折りを社員たちの前に
しずしずと差し出しました。
社長はどこへいったのでしょう?
社員たちにはわかっていました。
経営者の血をもってしか償いえない不祥事というものが
この世にはあるのだと。
社はそれからもほどほどに栄え、
菓子折り工場がいまどこにあるかは社員たちにもわかりません。