サーチエンジンに最適なオイルをお選びください
とりあえず「SEO」と言っておけばいい、
そんな時代がありました。
ウェブ開発者は「SEOに力を入れています」と言っておけばハクがつき、
クライアントは「で、SEOはどうなのかね」といえば通ぶれる、
のどかでバブリーな時代がたしかにあったのです。
だれもが検索結果の順位の上がり下がりに一喜一憂し、
ウェブページには目に見えないふしぎな呪文が書き込まれ、
検索エンジンが情報収集のためにウェブに放つ使い魔は
高度に訓練された小動物でした。
ハムスター、鳩、エチゼンクラゲ、コブシメなどといった
かわいらしい生き物たちは、ハイパーリンクを飛び渡りながら
疲れを知らぬ貪欲さで情報を収集し、ときにサーバのラックに
ぎゅうぎゅうに詰まって死んでいるのが発見されても、
なお変わらぬ愛らしさで人々に微笑みをもたらしました。
SEOは、ウェブ制作者と検索エンジン提供者のあいだで
繰り広げられる壮大ないたちごっこです。
そこではだれもが平等にイタチに扮することができ、
イタチの生態を、インターネット時代にふさわしく
ウィキペディア仕込みの孫引き知識でシミュレートしながら
通りすがりの猟師にバンバン撃たれ、やがては滅びてゆくという
悲劇性がわれわれ日本人の心を捕らえてやまないようで、
そんな電子的でグローバルな喧噪のなかで、
検索エンジンはつねに猟師であり、収穫者でありつづけました。
SEOとは、人類から機械へのアプローチであり、
その逆ではありません。
検索エンジンの基準にあわせてウェブページの記述を修正するという
行為は、そう遠くない未来、コンピュータ知性の価値基準にあわせて
人類がみずからをつくりなおすという行為と地続きになっています。
最適化された人類は、最適化されたウェブページと同様に
すみずみまで構造化され、適切にマークアップされて、
記述と装飾が完全に分離されています。
そのような最適化のささやかな代償として、
猟師に見つかりやすくなり、てっぽうで撃たれやすくなり、
煮たり焼いたりして食われやすくなると考えられています。
そのような悲劇を回避するために、我々はSEOに対して
つねに懐疑的な姿勢でありつづけなければなりません。
最後に、読者の皆様からお寄せいただいた
あいうえお作文をいくつかご紹介して
結びとさせていただきます。
S さわやかな
E 笑顔に会える
O 恐山
S さいはての
E 駅に流れる
O 大江千里
S サマー・バケーションも
E エンディングですねといって
O 折り鶴を渡された 夏