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#045 デフラグの済んだ人生がこちらにございます(レンジからなにかを取り出し)


デフラグの済んだ人生がこちらにございます(レンジからなにかを取り出し)


「ああ、人生をデフラグしたい……」

我々は、気が緩むとついつい
そんなことをつぶやいてしまいがちなものですね。
(*以降、特に記さないかぎり、我々とは人類全体を
指すものとします)

どうも我々は、
「人間は機械ではない」とか、
「人生は設計できるが、材料がだいたいグニャグニャ」とか、
そういったあたりまえの現実をわすれてしまい、
とっちらかった人生の不具合がプルダウンメニューの
選択ひとつで解決してしまうかのように夢見て、
足の踏み場もないほどにとっちらかった室内で
鰯の頭のように神頼みじみた気休めのマントラとして
冒頭のような言葉をもらしてしまうようなのです。

ちなみに、同種のマントラとして、以下のようなものがあります。
皆さんも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。

・人生を最適化したい
・人生をデバッグしたい
・人生を人間ドックに入れたい
・人生の初期不良を「やんちゃ」の一言でかたづけたい
・人生のメジャーバージョンアップはまだですか

それはさておき、問題は人生のデフラグです。

このデフラグというものが、
すべての問題を解決してくれる魔法であるかのように、
こんがらかった結び目を一刀両断したという
例のものすごい包丁であるかのように
ついつい錯覚してしまいがちなのが、IT時代の我々です。

でも、実際に人生をデフラグしたらどうなるのか、
人生のいったいなにが断片化していて、それを解消したら
いったい何が起こるのか、試すことのできた人間はまだ存在しません。

たとえば、
睡眠時間をハードディスクの空き領域のようなものとみなすなら、
デフラグによって、起きている時間が人生のはじめのほうに
ぎゅっと圧縮されて、まったく眠らずに50年ほどを過ごした後で
うしろの30年ほどは一度も目をさまさず延々と眠り続けて終わる、
というような形での人生の最適化があるかもしれません。

「寝ずに暮らせるなら人生が実質50年くらいで終わってもいい!」
と、今とてもとても強く願ってしまったことを告白します。
眠いと人はろくなことを考えません。
(*つまり、この文章自体の品質にも疑問が投げかけられています)

あるいは、ハードディスク内のデータに相当するのは、
ストレートに人間の記憶そのものかもしれません。
ばらばらに寸断され、あちこちに散らばってアクセスが困難で
あった記憶がデフラグによってきれいに整頓されて、
思い出したくない思い出がすべてクリアに見渡せるように
なったら、人間はあっさり発狂してしまうかも知れません。
我々はそういう脆弱性をかかえた存在なのかも知れないのです。
(*この「我々」は、人類全体のことではないかもしれません)

それとも、もしかすると、人生のデフラグにおいて
整理整頓できるのは、室内の持ちものかもしれません。
足の踏み場もないほどとっちらかって、なにがどこにあるのか
わからない部屋は、断片化の進行したハードディスクの
たとえには一番ふさわしいように思えます。
そこにはたとえば、上巻もしくは中巻下巻のありかが
わからなくなった小説(つまり断片化されたデータ)が散乱し、
それらにアクセスしようと思うと長い長い時間をかけた探索が
必要になるのです。

こまかい理屈ははしょりますが、つまり、
部屋を片付けさえすれば、
あなたの人生は劇的に改善されるかもしれません!
(*いま「あなた」と便宜上表現しましたが、実際には
筆者自身を指しています)

もしかしたら筆者自身にとって重要であるかも知れない結論が
でたところで、足の踏み場もなくとっちらかった自室で
筆者はやはり途方にくれています。
どこから手をつけたらいいかもわからない惨状を前に、
つい心のメニューをたぐり、「デフラグ」の項目を
探して逃避してしまうのです。
 

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この記事の著者

倉田 タカシ(クラタ タカシ)

「ネタもコードも書く絵描き」として、イラストレーション、マンガ、文筆業、ウェブ制作、Adobe Illustratorの自動処理スクリプト作成など、多方面で活動。
イラストの他に読み札も手がけた「セキュリティいろはかるた」はSEショップより発売中。
河出文庫「NOVA2-書き下ろし日本SFコレクション」...

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