ケータイをケータイすることにより、未来が過去になります
ケータイ電話が一体どのくらい便利になったら
あなたは満足するのですか?
あなたがケータイしたいのは、ほんとうは電話なんかじゃ
ないのではありませんか?
本当のところ、なにをケータイしたいのですか?
どうしてこんなにキレ気味なのかわかりませんが、
ある冬の夜、ひとりのケータイ開発者がそのように考え、
未来のケータイの姿を探る、短く遠い旅に出発したのです。
◆攻城兵器をケータイしたい
攻めのビジネスマンにとって、やはり堅牢な城壁のひとつや
ふたつ、簡単に突破できるものでなければなりません。
ケータイ可能な攻城兵器は、バネの仕掛けで指をパチンと
挟む、例のチューインガムを模したいたずらオモチャを
どことなく思いださせる姿をしています。
これを持ってビジネスマンたちは果敢に城を攻め、
その損耗率は90%を越えるというデータがあります。
◆高級割烹をケータイしたい
どこでも接待、いつでも貸し切り、と、ケータイ化要求の声が
かねてより高かった高級割烹。
ケータイできる高級割烹の厨房は当然ながらオール電化ですが、
板前との適合に難があり、開発は大幅に遅れました。
ふぐ免許つきの特別バージョンのリリースがアナウンス
されていますが、こちらも開発は難航しているようです。
◆貧乏をケータイしたい
そんなものをケータイしてどうするのか、と問われても、
貧乏とはどうしようもないものであり、せめてケータイできれば
慰めになるのではないかという淡い期待を裏切って、
ケータイしてみてもまったくどうにもなりません。
しかしいずれにせよケータイ可能にすることは可能だし、
貧乏は貧乏でありつづける、
ここに長生きの秘訣が隠されています。
◆ぶよぶよしたものをケータイしたい
空前のごわごわしたものブームの次に来ると予想されているのが
未曾有のぶよぶよしたものブームですが、ケータイ可能な
ぶよぶよしたものは、実はあまりありません。
この領域への参入をもくろんでいる企業は膨大な数になると
みられ、数少ないぶよぶよしたものの壮絶な争奪戦が
繰り広げられることになるでしょう。
そして、たくさんのぶよぶよしたものが川面に浮かび、
無言で流れてゆくでしょう。
◆聖なる動物をケータイしたい
聖なる動物といっても色々ありますが、身も蓋もない事実として、
大きければ大きいほど高い聖性を有していると受け止められ
がちである、ということは否定できないでしょう。
ですから、なるべく巨大で、かつケータイ可能である、という
相反する要求に応える必要が生じ、
技術的に非常にチャレンジングな案件になります。
また、このさい足の数は問わない、というのが、正しい大人と
しての態度であると言えるでしょう。
◆水素爆弾をケータイしたい
いささか物騒になってきました。
ケータイ可能な水爆となればもはや恐ろしいテロリズムの
世界の到来を予感させられずにはいられませんが、
水素爆弾を個人がケータイすることが、日常の人間関係の
あらゆる面において、いい意味での抑止力となりうることが
期待されています。また、気になる放射能ですが、
「そこは気をつけてください」とのコメントをいただきました。
◆アリの巣をケータイしたい
アリの巣をケータイするということは、ひとつの都市を
ケータイすることに等しく、その物流ネットワークによって
あなたが得られるアドバンテージは、ひろげると
東京ドーム50個ぶんに匹敵し、しかも税金は一切かかりません!
ケータイという言葉の定義を先にちゃんとやっておく
べきだったかな……
ここへきて、ケータイ開発者はちょっと後悔しています。
こんなことは要件定義における基本中の基本のはずですが、
薬物の影響下にあった開発者はちょっと自分を見失って
いたみたいです。
しかし、心が空白であればあるほど、その居心地よい空洞を
目指して奇天烈なアイデアが虚空を泳ぎやってくるのだと
深く信じていますので、きょうも技術者は
(空白)
アイデアは、いつも騒々しく到来を宣言します。
宿につくなり食事を要求する空腹の旅人のように
アイデアはただちに現実化されることを求め、
技術者は腕まくりをして、即座に作業にとりかかるのです。
その結果が茫漠たる廃墟になることを、もし始めから
知っていたとしても、やはり技術者は手を動かすでしょう。
自分はそのようにできている、という信仰によって
技術者は自己解体をまぬがれ、生産性を維持できるのです。