新しい技術を使って、新しい見せ方をやってみたかった
-とーはくナビを企画された背景を教えて下さい。
主に、総合文化展、去年まで平常展と言っていましたが、その集客が目的です。一つのテーマに沿って期間限定で行う特別展は、非常にたくさんのお客さんにご来館いただける一方で、総合文化展は600円と入場料も安いし、国宝も重要文化財も常にたくさん並んでいるのになかなか入ってもらえないという状況がありました。
もちろん、広報力も影響しているんでしょうが、これだけ広い空間に多数の展示物が並んでいるので、なにを、どこから、どのように見れば良いのか分からないというご意見も多かったのですね。多くの特別展では、200~300点を展示していますが、総合文化展では約3,000点もの展示品が常に並んでいます。端から全部じっくり見ていくと、半日、もしくは一日あっても足りませんし、途中でタイムアップしてしまう。
パスポートを持ってらっしゃるような常連会員さんは、好きなものを自由に見ていかれるので問題ないのですが、普段博物館にいらっしゃらない方々に興味を持っていただくためには、何らかのフォローをする必要があると考えました。それから、海外からの観光客の存在も大きい。東京国立博物館は日本文化の全てのジャンルについて、いつ来ても、ひととおり見ることができる貴重な場なのですが、「いざ来てみると、何からどう見たらいいのか分からない」というご相談を受けることが多かった。
そこで、例えば、初心者が「30分だけ時間があるから日本文化のさわりを見たい」「1時間使って詳しく見たい」という要望に対して、「ココとココを見たらいかがでしょうか?」とご案内をするものがあったら良いのではないか、そう考えたのです。30分でこれだけ楽しめるんだったら、次はもうちょっと時間を作ってこようかな、という具合になりますよね。
-今回のアイディアに至った経緯を教えてください。
きっかけは、今回の開発を担当していただいたクウジットさんからの提案です。今回の「とーはくナビ」にも利用している位置情報システムは、適切なタイミングで情報を送ることによって人の流れを作るというもの。イベント会場やショッピングモールで実績を重ねていましたが、限られた時間で平常展を楽しんでもらうためのナビゲーションを作るためにも活用できるんじゃないかと考えました。昨年1月の「法隆寺宝物館」での実証実験が成功したので、今回の試みに結びついたというわけです。
-スマートフォンを採用されている点が斬新ですね。
もちろん、音声ガイドやタッチパネルといった従来型の手段も考えられたのですが、せっかくなら新しいテクノロジーを使って、新しい見せ方をやってみたい。その点、今や、街歩きをするときにスマートフォンをナビ代わりに使うのは当たり前になっていますから、利用者にとって一番受け入れやすい形だと考えました。
スマートフォンを使えば、見せ方の選択肢も増えます。例えば、展示を深く理解してもらうために普段からワークショップなども開催していますが、それを画面上でバーチャルに、実際の展示品の前で見せられる。「蒔絵の原理はこんな感じ」「この鈴は振るとこんな音色がする」といった具合に、現物と向かい合いながらより深い鑑賞を可能にすることで、博物館の体験をより価値のあるものにできるわけです。
従来の音声ガイドと違って、前例がなかったので、事務的な手続きの面では一苦労しましたが、作品の解説ではなくナビゲーションとして使う事例としては先進的な取り組みになっていると思います。