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復興には、全体最適を見据えた新たな社会システム設計が不可欠―東京大学 工学系研究科 宮田秀明氏に聞く


未曾有の被害をもたらした東日本大震災。個別には復旧の槌音は聞こえても、原発問題や電力不足の長期化、復興への道筋など問題の多くは山積みされたままだ。東京大学で社会システム創成学を提唱する宮田秀明教授は、新しい社会へのシステム設計と全体最適化の視点なき復興は、今後の日本社会に大きな停滞をもたらすと危惧している。復興への岐路に立つ今、未来を見据えた新たな社会システム設計が不可欠であると同時に、要となるIT の新たな価値の創造が求められている。

ビジョンなき復旧に未来はない、新たな価値を生み出す復興を

―3.11 の東日本大震災以降、原発への個別の対応も含め救援やインフラ復旧の努力は続いていますが、復興のためのグランドデザインやシナリオは未だ明確に示されていないように見えます。

 今後、構想のないままで形だけ元通りにする復旧が進んでも、土木や建築などの一時的な特需で終わるだけでしょう。そればかりか、震災で受けた傷から回復できずに、日本は経済的にも精神的にも長期にわたって沈み込むことになりかねません。

東京大学 工学系研究科 環境海洋工学専攻 教授 宮田秀明氏
東京大学 工学系研究科 環境海洋工学専攻 教授 宮田秀明氏

 震災以前から、誰もが日本における社会構造の変革の必要性を感じていたはずです。グローバル化やエネルギー問題といった世界的な変化は、当然日本にも大きな影響を与えていました。しかし、このままでは日本は停滞するという危機感を抱きつつも、変化を畏れて踏み出せませんでした。シュンペーターの語る「創造的破壊」は難しかったわけですね。

 ところが、今回の東日本大震災が既存の社会基盤をすべて破壊してしまいました。もちろん、この震災が日本人すべてが受け止めるべき大きな不幸であることは間違いありませんが、全体としての設計のビジョンをもって推進していくことで、再生の可能性はあると信じています。

 当然、多くの被災者のためにも変えなければならないことだと思います。つまり、新たな構想に基づいて社会システムを設計し、実現し、運営することで、日本の新たな価値を創成し、新たな産業として世界に輸出していくということです。世界が課題として抱えるエネルギーや環境問題に対する解を、社会システムとして実現し、提供できれば、日本の産業競争力は大きく飛躍すると思います。

 そこで必要となるのが、様々な問題を解決する仕組みを考える「システム設計」の力です。どんな社会にするのか、構想を練り、全体図を設計し、緻密に全体最適化を図っていきます。そしてはじめて震災からの復興を実現したといえるのではないでしょうか。

― その際のシステム構想力や設計力が、日本人には不足しているといわれています。

 私の印象では、80 年代以降のバブル期から大きく損なわれてきたように感じていますね。それ以前の歴史を振り返っても、決して日本人がシステム構想力に欠けていたとは思えません。日本が国として大きく飛躍した時には、常にシステムが重要な鍵を握っていました。例えば、昭和初期には技術的に不足がある中で、「戦艦大和」のような名艦が建造されましたが、当時の日本人のシステム設計力が優れていたからだと思います。それが戦後に軍から民間へ人材の移動とともに移行し、新幹線などの大プロジェクトを次々と成功させていきました。要するに、それまでは軍のプロジェクトがシステム技術者を育てていたわけです。要素技術はすべて海外から輸入していたにも関わらず、もともと日本人には脈々と続くシステム工学の能力やスキルがあったはずなのですね。ところが、システム設計を担うべき理系の頭脳が、金融などの業界に流出してしまった。結局、産業が生成するというのは人材がどこへ向かうかなのです。

 ところが、90 年代以降、新たな要素技術はLEDやリチウム電池などに限られ、車もパソコンもそろそろ性能的な限界を迎えつつあります。21 世紀は社会インフラにインパクトを与える「システムの時代」へと大きく変化しています。それにも関わらず、いまシステムを設計する力は、行政にも民間のシンクタンクにも失われたままですよ。私が2010年にシステム創成学科を立ち上げたのは、日本のシステム力を復興させたいという思いからです。(次ページへ続く

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総合化で構想を練り上げ、実践する民間主導の新たな「シンクタンク」の創出を

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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