震災後に消えた「漠然とした不安」、いよいよクラウド本格化へ
佐々木 まず私の方から、震災以前から以後にかけての、日本企業のクラウドに対する評価や導入の状況について、感想を述べさせていただきます。震災以前の状況を俯瞰すると、企業の経営層のジレンマが強かったように思います。コンピューティングも「所有から利用へ」という流れになるだろうという予測は否定しないものの、現時点でクラウドを使わなければという切迫感は薄い。対応すればこれまでの投資がムダになる可能性もある。しかし、対応できなければ、いつか事業継続が難しくなるかもしれない。そんななかで、どの段階でクラウド化して、どうすればグローバル化に対応し、新しいビジネスモデルへと転換を図ることができるのか。方向性を探りながらも、現状はどうしてよいか分からない、という企業が多いように思われました。
もともと日本企業ではクラウドに対するコスト低減への関心は高いものの、セキュリティに対する不安が強い傾向にあります。米国はスモールビジネスからパブリッククラウドが普及していきましたが、残念ながら日本の中小企業はセキュリティの不安とともに、ITリテラシーの低さもあって導入が進んでいません。大手はプライベートクラウドを構築する力もありますから、パブリッククラウドが一般的になるのはかなり先だろうと予測する人が多いですね。ところがそんなときに、先日の大震災です。クラウドに対する不安が吹き飛び、事業継続における価値がにわかにクローズアップされました。おそらく実質的には今年がクラウド元年といえるのではないかと思っています。
クラウドは万能じゃない!?見えてきた現時点での問題点
高倉 私たちクラウド事業者から見ても、震災以降は日本企業のニーズが確実に変化したと思います。数年前から「データセンターのアウトソーシング」について問い合わせがありましたが、本格的になってきたのはリーマンショック以降です。コスト削減のプレッシャーの中、急速にアウトソーシングが進みました。そして、「クラウド」が認知・浸透したところで、中小企業や地方企業からの問い合わせも増加しました。そして、先日の震災によって肩を押されてさらに利用検討が少し早まったという印象です。
佐々木 現在、クラウドサービスの提供側のビジネスと導入検討企業のニーズの相性はいかがでしょうか? 通常、プライベートクラウド、パブリッククラウドでそれぞれ長所と短所がありますが。
高倉 両者とも実際に調べてみると必ずしも万能とはいえないようです。たとえば、従量課金型のパブリッククラウドでは、ビジネスが成長するにつれ、むしろ高コストになる可能性も否めないですし、必要なサービスがすべて提供されているわけではない。プライベートクラウドの自由度は魅力ですが、コストも技術も必要で、中堅以下の企業には手が届かない。
そこで、当社が開発したのが「SOD-NEXTプライベートクラウドパッケージ」です。私たちが持つセキュアで堅牢な共用環境の中に、自身でコントロールできるリソースを自由に置けるという、パブリックとプライベートの「いいとこどり」のサービスです。今年2月の販売開始直後から多くの問い合わせをいただき、一時は申し込みをお待ちいただくほどでした。震災後はさらに増加していますが、できるだけ迅速に対応しようと、先日規模を大幅に拡充するなど、全社をあげて取り組んでいるところです。
データセンター事業者でもあるビットアイルが考えるプライベートクラウドの理想像とは?
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「選択できる、最適な組み合わせ」で導入効果を最大限に発揮
佐々木 ユーザーのセキュリティに対する要望や反応はいかがですか。
高倉 クラウドについて勉強し、導入を決断した時点で、心理的な不安は消えているように感じます。一方、パブリッククラウドのようにサーバーがどこにあるのかわからない、自分たちでコントロールできないというような具体的な不安は、私たちが担保すると明言できれば払拭できると考えています。たとえば、回線が不安なら、お客様の回線を引き込むなどの対応も柔軟に行なっていますので、解決策があるというのは、大きな安心材料になっているのではないでしょうか。データセンターも都内4箇所にあり、どこでクラウドサービスが提供されているかも明らかにしています。震災以降は地方への分散ニーズも高まっていますので、今年6月には大阪にデータセンターを開設し、クラウドサービスについても提供を開始しました。
佐々木 様々なクラウドビジネスが登場していますが、活用において、どのような選択、最適化が必要だとお考えですか。
高倉 基本は企業規模でといわれますが、むしろサービスやシステム規模が指標でしょう。ある程度の規模なら自前で用意した方がコストメリットがあることも少なくありません。ただし、サービスやシステムに伸び縮みがあるところは、クラウドを使いながら調整し、確定的になったら自社資産での構築・運用へ移行するなどの柔軟な対応になると思います。
佐々木 ポートフォリオのように組み合わせを考えていくわけですね。
高倉 そうです。サービスやシステムの特性・ライフサイクルに合わせてコントロールできるインフラでなければ、コストの最適化は難しいと思います。また、どの領域に使うのかでも選択肢は変わってくるでしょう。グループウェアのようなツールは、Google Apps等のSaaSに移行する部分もあるかもしれませんが、業務・基幹系システムやWebビジネスでの活用などでは様々な選択肢から使い分けたり、組み合わせたりというのが、少なくともここ数年のトレンドになるのではないでしょうか。
正直、将来的なクラウドの全体像は私にもわかりませんが、現時点ではクラウド単体で完結はしないと思っています。システムは新旧あり、コストモデルも異なり、それぞれに対応するサービスが複数あって、自由に行き来ができるのが理想的で、本質だと思っています。
佐々木 すべてがクラウド化するまでの過渡期はかなり長いと予測されますが、ソフトランディングは大きな課題です。ハードは売れなくなるし、システムエンジニアもこれまでとは発想を変えていかなくてはなりません。
高倉 クラウドコーディネーターなどへのシフトもあるかもしれませんね。システムインテグレータも「好機」と捉えて動き始めたところもあるようです。クラウドを運用やメンテナンスなど、囲い込みのためのツールと考えることもできますから。ユーザーも、しばらくは既存システムはラックを借りながら、新システムはクラウドでといった“ハイブリッド”な環境は続くでしょう。連携が悩ましい課題ですが、当社のような両方のサービスを持つベンダーであれば、シームレスに連携させることも可能です。
環境構築とビジネスの二極化へ、身軽さで高まる国際競争力
佐々木 米国のように企業の淘汰を早められれば、新たな企業が起業時点からクラウドなどの新しいツールを導入し、急成長することで、国際競争力が高まるといわれています。日本では、既存の企業がタイミングをみながらクラウドを導入し、再構築するということになりそうですね。格差や社会不安などを鑑みれば、変化は穏やかな方がよいのでしょうが、急速な国際化に対応するためにはそうもいっておられません。できるだけ迅速に移行するためにも、日本のベンダーの効率的かつ精力的なサポートが必要です。
高倉 はい。インフラをユーザーの企業活動の足かせにしてはならない、「心配せずに仕事に注力してください」といえる存在でなくてはと思っています。
佐々木 ITビジネスは徐々にレイヤーが上がっていくという性格を持っています。以前は自分たちで環境を整えていたものが、徐々に仮想化されてコモディティ化していく。たとえば、80年代のプラットフォームはハードでした。それがOSになり、ブラウザになり、5年後はSNSがそれに取って代わるかもしれません。サポートする側はそのレイヤーに一緒に上がりながらサービスを考える必要があります。ユーザー側も自分のコアコンピタンスを意識しながら、それ以外はアウトソーシングを行い、身軽な状態で勝負していくことになるでしょう。究極的には、大規模な環境ベンダーとスモールビジネスという二極化が進みそうです。
高倉 そうですね。技術やリソースを抱えるのは当社みたいなところにお任せいただき(笑)、ビジネスに邁進していただきたいですね。かつてクラウドが、データセンターやホスティング事業者の脅威になるのではないかと危惧されたことがありますが、我々もプロアクティブに考えて決断し、現在の答えを出してきました。その結果、これまで接点のなかったユーザーからもお声がかかるようになり、新たな可能性の扉を開いたように感じています。
佐々木 ぜひ、日本企業のためにも活躍を期待しております。本日はありがとうございました。
データセンター事業者でもあるビットアイルが考えるプライベートクラウドの理想像とは?
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