プライベート・クラウドの一部を切り出してパブリック・クラウドへ
――クラウド構築に早くから取り組んでこられたと伺いました。まずは、その概要についてご紹介いただけますか?
そもそものきっかけはデータセンターの統合でした。現在、当社はさまざまなWebサービスを運営していますが、それらのすべてが同時に立ちあがったわけではありません。段階的にサービスを開始する過程で、必要に応じて構築してきたインフラ環境は4つのサーバーセンターに分散していました。
効率化を図るためにインフラの統合プロジェクトを開始したのが3年前。その後、1年間かけてプライベート・クラウドを構築、今年の6月に旧サーバーセンター群からの移行を一通り完了したところです。
プライベート・クラウドのインフラの仕組みは、サーバーをプールして利用者からの要請に応じて切り出す、ネットワーク機器やストレージのセットアップを自動化するといった一般的なものです。また、ハードウェアは基本的に単一機種で揃えました。例えば、サーバーなら1サーバー2CPUのIAサーバーに統一。分散処理で負荷に対応しています。従来と違って、高価なハードウェアなどは一切利用していません。
アーキテクチャという面ではAmazonさんが提供されているサービスと似ていますが、リクナビやじゃらんを始めとして多数の大規模サイトを運用しているため、それに耐えうるような設計としている点が特徴と言えるかもしれません。例えば、サービスレベルも障害時の対応レベルも非常に高い水準を掲げていますし、「原因不明」という言葉は許しません。何かトラブルが起こったときには、原因が特定できるまで徹底的に究明する。エンタープライズビジネスに特化したプライベート・クラウドとして運用しています。
――パブリック・クラウドについてはいかがでしょう?
パブリック・クラウドは技術的にも進歩していますから、プライベート・クラウドと並行して積極的に活用したいと考えています。もちろん、現状で全面的にパブリック・クラウドに依存することはできませんが、用途を特定しさえすれば十分に活用できる。パブリックとプライベートを状況に応じて使い分けるハイブリッド・クラウドの取り組みも進めています。
――すでに色々と取り組みを進めていらっしゃいますよね。
まずはパブリック・クラウドに対する見解をお話ししましょう。われわれはパブリック・クラウドについて規模の原理が働く設備産業だと考えています。大規模に設備を整えて、規模の原理でコストダウンを図るというのが基本戦略となる事業です。市場の性質上、長期間にわたって多くのベンダーが林立することはないでしょう。むしろ、淘汰が進んで、いくつかのベンダーに集約されていくだろうと考えています。
最終的に生き残るクラウドベンダーは、大きく二つに分類できると思います。一つは、コストパフォーマンスの高い設備を大量に揃え、低コストを徹底的に追求していくタイプ。もう一つは、高付加価値を追求していくタイプです。後者は、金融機関向けにセキュリティレベルを高めたり、物流業界だけに特化したりとカテゴリ特化型でいくつかのベンダーが生き残るのではないかと見ています。われわれのようなビジネスを営んでいる企業だと、アプリケーションの開発環境を整えたPaaSベンダーが関連してくるでしょう。
さて、クラウドを利用する上で、われわれが持っている仮説は「先行者が必ずしも有利だとは限らない」というものです。技術革新のスピードが速いので、短期間でハードウェアの性能に対するコストの比率が大きく変わってしまう。例えば、2年前にインフラを揃えた事業者と今年インフラを整えた企業では価格性能比が大きく違います。つまり、後発が有利だと言えるのです。より低価格なサービスが次々と参入してくるのですから、特定のベンダーが勝ち続けることは難しいのではないかと見ています。