何でもできるデータベースは何もできない
インサイトテクノロジーの話に戻ろう。
新久保さんは同社に転職してもう10年近くなる。何の迷いもなくここまで来たかのように思えるが、実はそうでもなかった。途中でデータベース監査製品「PISO」の開発チームに回り、しばらく過ぎた頃、ふと転職を考えるようになった。小幡さんが一時期、インサイトテクノロジーを離れていた、「小幡不在」の頃である。
「そろそろ次のステージへ進もうかと・・・」
そう言いかけた新久保さんに、「うそだ!“もうやってられないから辞める”って俺のところにきたじゃないか!」と割り込む小幡さん。詳しい事情には踏み込めなかったものの、過去には新久保さんにとって転職するかどうかの岐路があったらしい。
結果的に転職が未然に終わったのは、小幡さんの働きかけがあった。転職の意向を打ち明ける新久保さんに小幡さんは開発機とともにあるプロジェクトを持ちかけた。のちの、データベース専用アプライアンスマシン「Insight Qube(IQ)」である。そうこうしている間に小幡さんもインサイトテクノロジーの社長に復職。現在の体制になった。
ただ、IQ開発への道のりは簡単なものではなかった。最初は小さな想いと小さな予算からスタートした。論理的なハードウェアの設計とデータベースのチューニングポイントの仮説を検証するために、秋葉原で安価で品質の良いパーツを探しまわった。プロジェクトが進んでくると、パフォーマンスという観点で成果がかなり現れてきた。
「このプロジェクトで大きな成果がでると確信して、秋葉原で大人買いをした時は最高に気持ち良かった」(新久保さん)
現在は、パフォーマンスだけではなく、システム全体の堅牢性等を考慮し、全てを秋葉原で調達できるパーツで設計しているわけではないとのこと。ただ、IQの原点には、「世界はアキバが救う」というポリシーがあるのは間違いないようだ。
このIQへの取り組みもあり、いま新久保さんは主に小売業などが抱える膨大なデータの分析に関するソリューション開発に携わっている。いわば流行の「ビッグデータ」である。そこではOracle Databaseに限定せず、ハードウェアもソフトウェアも最適なものを選定している。
「『なんでもできる』というデータベースは、『何もできない』データベースと同じ」と話す新久保さんは、データベースには目的に応じた割り切りが必要だと考えている。トランザクション向きなのか、DWH向きなのかなど、データベースは適材適所で選ぶべきということだ。
最適なものを選ぶためには普段からの調査を欠かさない。大好きなOracle Database以外の製品もよく調べる。近年流行のNoSQL関係のデータベースにも一目置いている。データベースに関わる仕事をしていて何が最も楽しいかと聞くと、新久保さんはこう話す。
「データベースってブラックボックスみたいなところがありますよね。内部で何をしているか分からないときとか。分からないと、内部でどのように動いているのか知りたくなります。それが見えたときはうれしいですね」
―冷静沈着きわまりない振る舞いをもってしても、新久保さんのエンジニアとしての熱い鼓動は隠せない。
■■■ Profile ■■■
新久保浩二 SHINKUBO,Koji
インサイトテクノロジー データベース マニアック担当
製薬系SIerで職業エンジニアをスタート、多くの経験をしたが、データベースのシブイ世界に取り憑かれインサイトテクノロジーに転職。
インサイトテクノロジーでは、データベースコンサルタントとしてOracleデータベースの設計、チューニングやトラブルシューティングを担当。
2000年前半にOracleギーク界隈でまことしやかに語られ始めたOracle DMAの技術に興味を持ち、その製品化を担当。Oracle DMAの申し子「PISO」のプロダクトマネージャーとして活動。 昨今のデータベースの鬼熱度が増す中、データベース全般、さらにはハードウェアとデータベースのベストチューンを日々研究・開発する部門に移動し現在に至る。
近い将来、データベースのブラックボックスハッキングを卒業して、シブくてクールなデータベースを作りたいと画策中。
昨年始めたJPOUG(Japan Oracle User Group)の発起人のひとりでもある。「会社と違う価値観で、違う仲間と何かを作る楽しみを感じつつ、「予想以上の反響に身の引き締まる思いを強くしている今日この頃です」。