リーンスタートアップは、新規事業立ち上げに最適化された「思考のかたまり」
前回の記事では「プロセス導入」とは「手順やメソッドの導入ではなく、考え方を組織に取り入れること」だと説明しました。どういう行動を起こすべきか手順として示すのではなく、「考え方」として組織に示すことで、チームは自分たちでやり方を見いだしていくようになるのです。
たとえば、ある製品の売上総収益を増やすには単純にふたつのやりかたがあります。ひとつは販売数を増やすこと。もうひとつはコストを下げることです。
この両者に対するアプローチはそれぞれ異なる手段であることはすぐに分かります。販売数を増やすには営業・マーケティングが必要で、コストを下げるには製造工程を見直す必要があるのです。組織はどちらの手段を採用しても売上総収益の向上にはつながります。しかし、チームが統一された行動をするためには、どちらの戦略をとるかを明確に示すことが必要なのです。
ひとたび戦略(考え方)が示されると、ひとはその考え方に従って行動を取り始めます。たとえば売上総利益を伸ばす手段として「コストの徹底した削減」が採用されると、ひとは「ムダ」を生み出すすべての工程について改善を試みるようになります。あらかじめムダを生みそうなところに対して対策が手順として示されるよりも、チームメンバーが自らムダな箇所を見つけ出し、解決しようとする組織が出来上がるのです。
プロセスとは「手順のかたまり」ではなく「思考のかたまり」であり、リーンスタートアップは、新規事業立ち上げに最適化された「思考のかたまり」なのです。リーンスタートアップを進めるうえで理解が必要な「思考」をご紹介します。
既存事業は「融資事業」、新規事業開発は「投資事業」
新規事業開発とは「投資事業」です。失敗のリスクにあえて挑戦し、数多くの失敗のなかから成功の芽を見いだしていくという作業なのです。その前提を理解して、既存の事業にかかる作業と同じ「思考」で新規事業を進めてはいけません。組織がプロジェクトの失敗を許容しないことで、せっかくの可能性を失うということは頻繁に起こります。投資事業を進めるには独特の思考セットが必要なのです。
「リーンスタートアップ」や「顧客開発モデル」では、顧客が存在しない製品・サービスの製造・開発に多くの資源(ひと・もの・かね)を投入することこそが、新規事業にかかる最大の「ムダ」だと言っています。マーケットからのリアルなフィードバックを受けることなく製造・開発した製品のほとんどは作り手の「思い込み」であって、本当にマーケットが欲しい状態にはなっていないのです。
多くの組織は新規事業に取り組む際に失敗を恐れます。長い時間をかけて計画し、ようやく事業着手の承認を得て多くの予算と生え抜きのメンバーが招集されたのですから無理はありません。しかし、このような「成功ありき」の進め方こそが、結果的には「一発勝負」の戦い方を招き、結果として「思い込み」たっぷりの製品やサービス開発が実現されてしまいます。
もちろんこうしたやり方では、成功する新規事業が生まれないと言っているのではありません。潤沢で尽きることのない資源(ひと・もの・かね)があるのであれば、なかには大ヒットする可能性はあります。しかしこうした「思考」で成功へたどり着けるのは、ごく限られた組織だけです。資源に限りがある普通の組織では、新規事業という投資に適した「思考」に基づいて行動を起こすべきなのです。
それが、エリック・リースがトヨタ生産方式を参考に提唱する「スモールバッチ」や「ワンピースフロー」の考え方なのです。