「シリアル・イノベーター」が切り開く大企業内イノベーションの流儀
(第18回)イノベーションに効く翻訳書10:『シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』
シリアル・イノベーターのプロセスは「砂時計型」
本書ではシリアル・イノベーターの「砂時計型」イノベーションプロセスが紹介されています。

本書では製品開発のプロセスとしてよく知られた「ステージゲート・プロセス」は段階的イノベーションには向いているが、ブレークスルー・イノベーションでは、すでに開発されたものを基に進められるものではないため、ステージゲート・プロセスが機能しにくいとしています。
ブレークスルー・イノベーションでは、「イノベーションの曖昧な初期段階(FFE: Fuzzy Front-end)」が混乱とともに膨大に発生することが、与件がある程度整っている段階的イノベーションの場合と大きく異なります。ブレークスルー・イノベーションを成就させるためには、この混沌としたFFEの中から、顧客の課題を発見し、理解を深め、解決に導く技術開発を行う必要があるのです。
「課題の発見」「課題の把握」「技術開発と評価」という「砂時計型」プロセスの上部がシリアル・イノベーターにおけるFFEの段階となります。
本書において幾度となく強調されるのが、この課題発見の部分です。シリアル・イノベーターである技術者が顧客やユーザーと実際に接することで、「顧客イマージョン(没入)」と呼ばれる、顧客の立場になって顧客の気持ちがわかるレベルにまで顧客を深く理解し、顧客の課題を洞察します。
次に、顧客の課題の洞察を踏まえて技術開発と評価を行います。この時に重要になるのは「モデル」の構築と評価です。モデルは、顧客の洞察によって得られた仮説を概念的に構造化したものです。モデルの構築・評価と単純化を繰り返すことで、課題解決策の方向性をよりシャープなものにしていきます。
適切な課題への解決策を創造できたと確信できたら、砂時計の下部の解決策を実際の製品に置き換えて行くプロセスに移ります。
このプロセスの一つ目の要点は、「製品開発(遂行)」と「市場での普及」を直線的なステップとして捉えるのではなく、行ったり来たりする反復プロセスとして捉えるということです。
そして二つ目の要点は、この反復プロセスにシリアル・イノベーター自身が深く関与するという点です。標準的な製品開発プロセスでは、プロセスの後半になるほどマーケティング部門の担当となりますが、ブレークスルー・イノベーションでは製品ポテンシャルの理解が少ないマーケティング部門にまかせるのではなく、シリアル・イノベーター自身が製品の伝道者になることが効果的なのです。
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岩嵜 博論(イワサキ ヒロノリ)
株式会社博報堂 コンサルティング局ストラテジックプラニングディレクター
博報堂において国内外のマーケティング戦略立案やブランドプロジェクトに携わった後、近年は生活者発想によるビジネス機会創造プロジェクトをリードしている。専門は、エスノグラフィックリサーチ、新製品・サービス開発、ビジネスデザイン、ユーザ...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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