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反転授業の先駆者アーロン・サムズが語る、「学習者中心・興味重視」教育への移行

「反転授業のデザインと評価手法~先駆者に聴く、反転授業の概念と実践事例~」セミナー講演録


 2008年ごろから、米国の初等中等教育の現場で反転授業(Flipped Classroom)という指導法が注目されている。その共同発案者の1人アーロン・サムズ氏が共著の翻訳書『反転授業-基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける』の出版を記念し、来日した。本レポートでは、5月24日に東京大学で行われた同氏の講演内容から、反転授業の基本的な考え方を紹介する。

反転授業の背景・出発点—知識の伝達が教育なのだろうかという疑問から

 私は12年間、高校の化学教師として科学教育に携わってきました。反転授業は、その経験に基づいています。私自身は賞をいただくなどしたこともあり、優れた教師として認められていました。それでもなお、教室の中心を先生ではなく、生徒や学びそのものにするためにはまだ道のりは遠いと感じていました。

アーロン・サムズ
▲反転授業の先駆者アーロン・サムズ氏

 長年、指導者の私が教室の中心でした。情報を伝える主要な手段が「1人の教師が大勢に向かって説明すること」で、それが教育のあるべき姿だとしたら、少しばかり問題だと思うのです。

 講義形式の授業が合っている生徒もいれば、そうでない生徒もいますが、新しいことにワクワクしたり、何かをやってみようという気にさせるためには、みんなが一緒にいる時間は、「アタマ(mind)よりも、ココロ(heart)に訴えかける」ほうがいいのではないでしょうか。

 アタマにアクセスする部分でテクノロジーを活用したら、もっと効率的に情報を伝えられるのではないか。グループ全体に対してではなく、一人ひとりの進捗に合わせて指導できたら、教育法はずっとよくなるのではないか。これが、反転授業の背景となった考え方です。

 情報の伝え方を変え、発見を通じて学ぶ時間をより増やす。従来の講義形式の教え方に慣れた人たちは、発見を通じて学ぶ時間を生徒たちにあまり与えてきませんでした。

 授業中に積極的な者ほどよく学ぶということはご存知だと思います。講義形式の授業でもっともアクティブなのはだれかというと、先生ですね。生徒のほうは、ガムを噛んだりしている。

 私自身、ときに生徒を退屈させて眠らせてしまうような教師でした。というのは、正直に言って、自分がよく知っていることについて話すのは楽だからです。教室での時間をどう使うべきか、私たちは誤解しているのです。

 お子さんがいらっしゃる方なら、子どもが宿題をしているのだけれど、何をどうしたらいいのかわからなくて困っているという光景を目にしたことがあるでしょう。子どもに難しいことを家でやらせようとする。一方、先生は学校で自分の知っていることを話していればいいから楽です。生徒も座って受け身で聞きながらスライドを丸写しにしていればいいから楽です。これでは考えるということがありません。

 しかし、その後で否応なしに宿題で難しいことはやるはめになります。学習段階で易しいのは、「記憶(remembering)」と「内容理解(understanding)」です。従来の教え方では、授業時間の大半はこの易しい部分に充てられ、分析やリサーチなどの高度な部分は自力でやりなさいという。本来は、難易度の高いことをするときに、専門家がそばにいたほうがよいはずです。

学習段階
▲学習段階:下から記憶、理解、応用、分析、評価、創造。上へ行くほど難易度が高まる。

 そこで、生徒には易しいことを先に家でやらせ、教室では難しいことのほうをみんなで一緒にやりましょう、ということにしました。反転授業はこうして始まりました。

次のページ
反転授業の実践—大切なのはビデオ教材ではなく授業時間の使い方

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