ビジネスモデルを構築する必要性を一言でいえば、「付加価値の創造」です。そしてビジネスモデル会計の重要な役割は、付加価値を測定し、ビジネスモデルを評価するための基準作りです。前回は、ドラッカーの5つの計器を、「ビジネスモデルの評価基準」として紹介しました。連載のテーマである「ビジネスモデルを会計的に考える発想」すなわち「計数感覚」が重要であることは、ドラッカーの5つの計器をみれば明らかではないでしょうか。連載の最後に、ビジネスモデルとビジネスモデル会計の関係を整理しながら、計数感覚をどのように身に付けたらいいのかについて、まとめてみます。
ビジネスモデルと戦略フローの関係を理解しよう
ビジネスモデルを考える場合には、まず戦略フローとビジネスモデルキャンバスの関係(第17回)を理解しておく必要があります。
戦略フローは、ビジネスの方向性を定義することから始まります。すなわち「戦略ドメイン(顧客、ニーズ、独自能力)」の定義を行います。第17回ではイオン、ローソンなどが、競って展開している小型スーパーの例をあげました。戦略ドメインの定義によって、顧客を明確にし、何を提供するのかを決める段階です。この“何を”にあたるのが、「VP(価値提案)」です。価値提案すなわちビジネス・アイディアがひらめいたら、それを実現するための方法論を具体的に構築していきます。
この方法論こそ、「マーケティング」です。チャネルの選択(CH)、カスタマーリレーションの方法(CR)、必要な設備などのインフラ(KR)は何か、必要人員と必要な能力は何か(KA)、仕入先、外注先などのパートナー(KP)の選定・活用など、企業活動のイメージを膨らませることで、ビジネスモデルの実現可能性を確信していくプロセスが、マーケティングです。戦略ドメイン、マーケティングとビジネスモデルキャンバス(9つのブロック)との整合性も確認してください(第15回)。
ビジネスモデルを考える過程で、計数化を並行して考えることが必要です。計数化に際しては、次の5つの項目(これをモデル化計数と名付けます)を柱にして検討します(図1)。

戦略ドメインとマーケティングに関連する知識やノウハウは、ビジネススクールなどで勉強している人も多いでしょう。これらの基本的な考え方を理解している人は、実践的なワークショップを繰り返すことで、自然と使い方を身に付けることができるはずです。
しかし、ビジネスモデルを考えるワークショップやビジネスモデルキャンバスにおいて、ビジネスモデルの計数化には、あまり重点が置かれていないようです。この点は、連載のキッカケでもあります。
重点が置かれていない理由を考えてみました。ビジネスモデルを計数化することは、戦略・マーケティングを考えることと同等の知識とノウハウが必要になるため、時間や紙面を割けなかったと推測しています。著者やビジネススクールの先生方も、計数化の重要性を十分に認識しているはずですから、優先順位の問題です。
私は、計数感覚養成コンサルタントとして活動しています。そのキッカケも、ビジネス活動を計数と関連付けて考えることができる能力(計数感覚)をどう身に付けたらいいか、わからないという声が多かったからです。ビジネスモデルジェネレーションに出会った時にも、すぐに感じた課題です。
「計数感覚」は、簿記・会計を勉強しただけでは身に付かない経営能力なのです。
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千賀 秀信(センガ ヒデノブ)
公認会計士、税理士専門の情報処理サービス業・株式会社TKC(東証1部)で、財務会計、経営管理などのシステム開発、営業、広報、教育などを担当。18年間勤務後、1997年にマネジメント能力開発研究所を設立し、企業経営と計数を結びつけた独自のマネジメント能力開発プログラムを構築。「わかりやすさと具体性」という点で、多くの企業担当者や受講生からよい評価を受けている。研修、コンサルティング、執筆などで活躍中。日本能率協...
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