仕事はキャリアパスにすぎない
中国に設立された日本企業が、現地採用の社員を日本的な考えかたで管理すると、壁にぶつかることが多い。日本では合理的と思われることでも、中国人に必ずしも受け入れられること、理解されることではないからだ。
まず会社への忠誠心に関して、日本企業と中国人社員とでは認識に天と地との開きがある。
そもそも、会社を信用する、あるいは会社に依存する中国人は少なく、自分がこの会社でどれだけ成長できるかを常に考えている。会社が考えているキャリアパスを信用せず、自分自身でチャンスを探している。当然、転職する者も多い。このことは、会社経営に大きな影響を及ぼす。人材を育ててから、はじめて事業を成功させるという考えかたは、中国では通用しない。
中国人を研修のために日本に呼び、仕事を丁寧に教えてあげて1日でも早く一人前になってもらいたいと願っても、中国人にとっては日本研修も単なる自分のキャリアパスの1つにすぎず、よりよい処遇を与えてくれる職場に転職できる材料でしかない。
今の中国社会では、「よりよい処遇を得られるかどうかは自分自身の努力次第」という考えかたがすっかり定着しており、「他人から受けた恩を返すために自分のチャンスを放棄する」ような中国人は少ない。これは、現代中国の社会環境の厳しさを物語っている。理性や情に縛られていてはチャンスをつかむことはできないので、本能で動いてしまうのだ。
最終手段は利益関係で結ばれること
日本では、不況が襲い、今まで会社側が保証してきた終身雇用や退職金などが失われたとき、「会社を信じてきたのに」と悲鳴を上げる人が少なくなかった。対照的に、中国人はそういう悲鳴を上げないだろう。最初から会社を信用しているわけではないからである。自分のことは自分自身で片を付ける中国人は、会社と従業員は法律で定められている雇用関係でしかない、とドライな考えかたをする。
だが、それでは業務の遂行が難しくなるため、親睦を深めたり株を持たせたりして、求心力を高める工夫がなされる。時には、業務の遂行に影響するような転職を防ぐため、重い罰金を設けるケースもしばしば見られる。だが、有効な最終手段は利益関係で結ばれることである。
利益関係を超えるイデオロギーで社員をまとめることのできる会社が生まれるのは100年に1社あるどうかという世界で、立派な会社はリーダーのカリスマ性、社会環境のタイミング、太陽の黒子の活動周期など、すべての条件がそろった時点でないと生まれない。努力して実現できるものではないのだ。
また、中国企業は技術者がしょっちゅう転職することを恐れて、地道に基礎研究に取り込むことはあまりしない。または、国有企業の体質で、人を自由に移動させないという行政的な手段を取るという保証がないかぎり、基礎研究に熱心にはなれない。
そういう意味では、国のメンツをかけて立派な成果を上げることはするが、社会環境が作られていないため、人工衛星やリニアモーターカーといった分野で世界でも一流の成果を生み出すにはまだ時間がかかるだろう。