モノだけでなく”カネの動き”に着目する
さて、この連載ではIoTを活用したビジネスモデル変革のために情報システムの全体デザイン(エンタープライズ・アーキテクチャ)がどうあるべきかを見てきています。前回の「IoTでビジネスモデル変革に成功している企業の共通点」では、2つのことを紹介しました。
1つは、IoTでビジネスモデル変革に成功している数少ない企業の共通点は、IoTを導入してモノを進化させるのと同時に、ヒト・カネ・情報の動きも進化させているということです。今回は、その中の1つであるカネの動きの進化について考えます。
そしてもう1つは、それを実現するためにはエンタープライズ・アーキテクチャ、つまりビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジという4つの視点における企業を俯瞰するデザインが重要だという話でした。今回は最初の階層であるビジネスの視点で、企業を俯瞰したデザインの押さえるべきポイントを見ていきます。まずは、IoT時代にビジネスはどう変わるのか?そこから考えたいと思います。
IoT時代にビジネスはどう変わるか?
最初に、一般的なモノを売るビジネスを見てみましょう。モノを出庫して顧客に納品したら、そのタイミングで債権もしくは現金を得る活動です。この活動を概念的に表現すると、モノが動けば同じタイミングで逆方向にカネが動く、と捉えることができます。
IoTでモノがインターネットにつながるようになると、ただモノを売るのとは異なるビジネスモデルが可能になります。前回と同じ例を示しますが、これまで顧客に機器(モノ)を導入していた企業が、その機器(モノ)を使った分だけ(オンデマンド)課金のサービスとして提供するようになるビジネスモデル変革が考えられます。IoTによって、顧客企業に設置した機器(モノ)が利用された量を把握して、それに基づく請求を行えるようになります。
この例を別の方法で可視化すると、図3のようになります。一般的なモノを売る活動――モノを売り切るビジネスモデルであれば、モノとカネの動くタイミングは一致しています。しかし、IoTで実現できるようなモノをサービスとして提供するビジネスモデルにおいては、モノとカネの動くタイミングは一致していません。この例では、まずモノ(機器)を顧客企業内に設置するという動きがあって、その後に顧客企業のモノ(機器)の利用量を集計して毎月の請求というカネの動きが発生します。
上記は単純化した一例なのですが、IoT時代のビジネスは必ずしもモノとカネの動くタイミングが一致しないことが前提になります。そして、ただモノを売り切るだけではなく、モノを含めたサービス全体としての価値を顧客に提供するなど、ビジネスモデルのパターンが増えてくるのが特徴といえます。ただ、ここから重要となるのは、さらに視野を広げてIoT以外のビジネスモデルのパターンまで考えが及ぶか否かです。