カルビーの経営革新とITの戦略的活用
「IT部門にとって千載一遇のチャンスが到来しています」と、冒頭で中田氏は強調する。近年ではビッグデータ、IoT、クラウドコンピューティングなど、ITの高度活用に関する情報がはん濫している。加えてITの戦略的活用は経営トップの関心事でもある。
これまではIT部門の役割はITシステム基盤の開発や維持だったが、これからは経営層や事業部門に戦略企画を提案する立場へと転身を図るべきというのが中田氏の提言だ。
ただしIT投資の重要性に関しては、まだ日本は消極的だ。電子情報技術産業協会の2013年報告によると、経営から見たIT投資の重要性についてアメリカでは「極めて重要」だけでも75.3%あるのに対し、日本では「極めて重要」はわずか15.7%。「重要」を合わせても68.5%にとどまる。
ITR「IT投資動向調査」を見ても、新規ビジネスモデル実現、事業・業務変革、経営情報の可視化といった「攻めの投資」に相当するものの重要度が低い。こうしたものの重要度を高めていくことが重要だ。 ではITからどのように構造改革を進めていくべきか。中田氏によると重点投資テーマは経営戦略実現に貢献するものであり、その目的には競合優位、差別化、グローバル化があるという。加えてシステム開発方針は従来のように開発や資源が自社に集中するシステム構成から脱却し、ERP、BPO、クラウドを積極的に活用する方向へ転換を図るべきだという。言い換えればC/S(クライアント/サーバー)からクラウドコンピューティングへの転換だ。
中田氏は、その中でもERPのクラウドへの移行を挙げる。コスト削減、最適化、安定性、セキュリティなど多くのメリットがあり、レガシーシステムから短期で離脱が可能となる。ここで重要なのは「はっきりした目的を掲げること」と中田氏は念を押す。例えば経営情報の迅速化、グローバルな範囲での経営可視化、基幹業務の保守コスト削減などだ。
いくつか重要なポイントを中田氏は挙げた。ERP導入の前提として「ERPを業務に合わせようとしてはいけません。業務をERPに合わせてください」と警告。そしてIT部門だけで進めるのではなく「業務現場も巻き込むこと」も重要だという。 開発は迅速に行うこと。そして「ビッグバン方式」を掲げた。全社一斉導入するということだ。会計システムだけなど限定的な導入では「確実に失敗します」とバッサリ。システムから現場まで一気にシステムを変えること。そうして初めて「大きな効果が得られる」という。
中田氏はかつて所属していたカルビーでの実績を紹介した。成長戦略として「非常識」な戦略構想を掲げた。例えば「スナックは生鮮食品」、「スナックはファッション商品」などこれまでの常識を打ち破る構想を掲げ、日本的スナックの世界展開へとつなげた。
例に出した「スナックは生鮮食品」だと、実現のための施策の一つとしてパッケージへの日付表示がある。これで店頭における鮮度が可視化され、鮮度の許容範囲を定めるなど管理が可能な状態へと変わった。さらにSCMの高度化やパッケージのアルミ化などへと発展し、スナックは生鮮食品として扱われるようになっていった。
あらためてまとめるとITによるビジネス変革とは全員参加、共創、可視化というマネジメントに加えて、さらにプロダクトやプロセスやマインドも変革していくことになる。中田氏はIT部門に対して脱コストセンターを目指すこと、事業戦略に精通すること、新型IT人材を確保すること、そしてリスク管理などの守りもしつつ、「IT革命を主導せよ」と鼓舞した。