ロボットは東大に入れるか?
「2030年には現在のホワイトカラーの約50%はAIやロボットに代替されるだろう」
2015年12月、そんな予測が野村総合研究所よりニュースリリースとして発表され、多くの人々に衝撃を与えた。その根拠となっているのが、2011年に出版されたマサチューセッツ工科大学の研究者エリック・ブリニョルフソンによる『機械との競争』、そして13年のオックスフォード大学のオズボーン准教授による論文だ。しかし、その5年前に既にその予測を発表していたのが新井紀子氏だ。
新井氏はもともと数学者であり、先駆けること2010年に著書『コンピュータが仕事を奪う』で同様の予測をしている。やや時代が早かったのか、その警告は十分に受け止められず、新井氏は世の中への周知のために2011年より「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを立ち上げたという。
「ロボットは東大に入れるのか?」
新井氏の問いかけに対し、会場の約8割が「YES」に挙手。その根拠として多くの人は「ビッグデータとディープラーニングの進化」をあげ、2013年3月に開催された第2回将棋電王戦でコンピュータ将棋のソフトウェアである「ponanza」が五段の佐藤慎一に勝利したことを例としてあげるという。つまり、年間3000人入学する東大よりも、五段の棋士になる方が難しいはず、それに勝利したのなら……、と考えるわけだ。人間が生み出した最も難解なゲームと言われる囲碁の世界でも、「人間に勝つには10年かかる」との下馬評を覆し、2016年3月にAIが圧勝した。
「ロボットは東大に入れるかどうか」の見解について、新井氏はまずは保留し、「機械学習の仕組みを考えてみると、自ずと答えが出てくる」と示唆する。その例として「画像認識」の例をあげて、人間と機械の課題解決のアプローチの違いを解説した。
たとえば猫の写真を見れば、人間は瞬時に猫と認識する。耳や毛並みの感じなどの部分情報、そして過去の経験から照らし合わせて判断するわけだ。もちろん機械でもルールや文法から判断することは可能だ。しかし、「目を閉じた犬」をどう判断するか、人間ならすぐに分かるものも機械には途端に難しくなる。つまり、現実の社会は複雑で、定められたルールや文法から判断する「演繹的方法」では限界があった。
これに統計・確率を基盤とする「帰納的方法」による「機械学習」が加わって、飛躍的に画像認識力は高まった。これまで人間が提供していた線引きを、機械自身が行うようになる。つまり、大量の犬と猫の写真を解析し、その分布から規則性・関係性を推定し、そこから犬か猫かを判断するというセオリーを身につけたのだ。特に“物理”があるもの、音や画像などについては、人間よりも高い精度で行えるようになっているという。
その成果が実を結びつつあるのが、たとえば「自動運転」だろう。業務系交通へのAIの導入により、交通事故は半分以下に激減すると期待されている。