グローバル年次イベント「EMC World 2016」を5月2日から米国ラスベガスにて開催した。今回で16回目、参加者は世界から1万人以上。大きなテーマは「MODERNIZE」、EMCジャパンは「最新鋭化」という日本語で表現した。EMCジャパン システムズエンジニアリング本部 吉田尚壮氏が「最新鋭化」の概要と主要製品について解説した。
参考:EMCとDELLの統合は「双方のいいとこどり」――EMC World 2016
15年後の未来
吉田氏はこう切り出した。「15年前(2001年)を振り返ってみてください。まだWindowsはXPで、携帯電話は3Gネットワークでした。まさか15年後にAWS(Amazon Web Service)のようなクラウドサービスがIT業界を席巻しているなんて誰が想像したでしょうか」(AWSがサービスを開始したのは2006年)。
今度は未来に目を向けよう。これから15年後(2031年)はどうなっているだろうか。イーサネットはテラバイトとなり、ヒトの遺伝子解析にかかる時間は現在の38時間から94秒に縮まると予測されている。技術はますます発展する。その中でビジネスも変わっていく。「だからこそ、企業は変革する必要があります」と吉田氏は強調する。
例として吉田氏は米国フロリダにあるディズニーワールドを挙げた。そこでは、リストバンド(ICタグが埋め込まれていると想像される)が渡されるのだそうだ。遊び終わってホテルで専用サイトにログインすると、園内各地で撮影された自分の写真を閲覧することができて、好きなものを購入できるという(もちろんICタグの利用は任意だろうが、行動を全てトラッキングされて撮影までされることに抵抗がある人もいそうだが)。テクノロジーが新しいビジネスを生み、ユーザーの意識も次第に変化していくのだろう。
これからの15年のITについて、EMCはクラウドネイティブとトラディショナル(既存IT)の混在になると考えている。クラウドネイティブは市場の変化に俊敏に対応し、顧客のニーズを重視し、戦略的なアプリケーションで次のビジネスを生み出していく。今「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれている世界だ。一方、トラディショナルは基幹業務など従来からあるものの、ますます効率化していく必要があり、サービスレベルを維持するなどインフラ管理が重要になる。
IDCの調査によると、クラウドネイティブとトラディショナルはまだしばらくは多くの企業で混在するが、投資額ではシフトが起こっている。トラディショナルへのIT投資額の伸びは近年鈍化しつつあり、これからは効率化が進むことで投資額は減少していく。その分、投資はクラウドネイティブへと向けられ、デジタルトランスフォーメーションが進むというわけだ。
トラディショナルからクラウドネイティブへシフトするとき、主役となる技術的な要素も移り変わっていく。アプリケーションのアーキテクチャはモノリシックからマイクロサービスへ、ソフトウェアはプロプライエタリからオープンソースへ、インフラはオンプレまたは仮想マシンからコンテナへと変わる。
そうした背景で企業のデータセンターには何が必要か。吉田氏は4つの柱を示した。まず1つ目「フラッシュ」はコスト削減と高性能を実現、2つ目「スケールアウト」は成長に合わせた拡張性、3つ目「ソフトウェア定義」は柔軟にプログラムできるデータサービス、最後の4つ目「クラウド連携」はアプリケーションの可搬性である。これに加えて土台には「保護と信頼性」としてセキュリティやガバナンスも必要になる。データセンター最新鋭化の実現を支援するため「EMCはこれらの要素を含んだソリューションを提供していきます」と吉田氏は言う。
EMCのクラウド戦略、2つの軸
次にEMCが考えるクラウド戦略へと話を移そう。EMCのクラウド戦略はオンプレミスとオフプレミス(クラウド)、トラディショナルとクラウドネイティブという2つの軸で分けている。
まずオンプレミスでトラディショナルにあるソリューションが「Enterprise Hybrid Cloud ソリューション」。2014年からリリースされており、セルフポータルと自動化によりITaaSの実現とTCO削減を目指す。従来のITをいかに効率化するかという世界だ。
このオンプレミスで稼働するトラディショナルなワークロードを、オフプレミス(クラウド)へと移行するソリューションが「Virtustream」。マネージドクラウドサービスに特化したクラウドサービスプロバイダだ。2016年5月からは「Virtustream Storage Cloud」が提供開始となり、オンプレミスにあるデータのバックアップやアーカイブとして使える。
クラウドネイティブにおけるソリューションは「ネイティブハイブリッド」。クラウドネイティブのアプリケーション開発、実行環境に最適なPaaSを提供する。2017年から提供開始予定。加えてVirtustreamがPivotal Cloud Foundryをサポートすることも新たに発表された。こちらは2016年下半期からサービス開始予定。
インフラ構築の効率化の決定打となるのがハイパーコンバージドインフラだ(事前検証済みでストレージを統合したサーバーで、拡張性に優れている)。ここにEMCが新しく発表した製品が「VxRack System 1000 with Neutrino Nodes」。EMCがハードウェア、プラットフォーム、IaaSまで一括して設計し、構築し、サポートも担う。吉田氏は「すぐにIaaSとして使える、ラックスケールのハイパーコンバージドインフラです」と言う。OpenStack(コミュニティ版)ほか、管理コンポーネントにOSSを採用しているのが特徴だ。
実装している機能はアカウント管理、リソース管理、監視&レポーティング、REST API、ログ管理、インベントリ管理、ソフトウェアインストール&アップグレード、システムメンテナンスがあり、すぐに使えるようになっている。OpenStackはリリース時の最新版で検証済みのものが搭載される。日本では2017年上半期から提供開始予定。
吉田氏は「ノード拡張作業は数十分で完了します。しかも完全自動化です。わずか数クリックでできます」と強調し、実際に4ノード追加する様子をデモした。まずは管理画面から追加したいノード(未使用のノード)をクリックし、次に「Deploy Service」をクリック。後はバックグラウンドで必要なソフトウェアのインストールから、各種設定や構成変更が実行され、数分から数十分後にはノード拡張が完了する。
本製品の提供により、VxRack Systemのラインナップは3つに広がった。これらの違いはハイパーバイザーに何を使うかでもある。これまでは仮想インフラとしての「FLEX Nodes」、VMware IaaSとしての「SDDC Nodes」があり、そこにクラウドネイティブなIaaSの「Neutrino Nodes」が加わることになる。現時点では「Neutrino Nodes」で実装されるのはOpenStackだが、将来的にはPHOTONやHadoopも計画中だという。吉田氏は「お客様の選択肢を増やし、さらに使いやすくなるようにと考えています」とEMCの考えを述べた。
さらに、吉田氏はこのNeutrinoとオープンなPaaSであるPivotal Cloud Foundry(以下、PivotalCF)を連携・統合させたEMC Native Hybrid Cloud(ネイティブ ハイブリッド クラウド)についても言及した。クラウドネイティブの世界ではトラディショナルのものとは異なる、新たな技術要素が必要になってくる。例えばアジャイル開発、コンテナ技術、モバイル対応、ソースコード管理など。
なかでも重視すべき要素として吉田氏が挙げるのはアプリケーションを疎結合させる「マイクロサービス」、素早く確実なリリースサイクルを実現する「継続的デリバリー」、開発と運用チームが目的を共有し協調を重視した仕事の関わり方である「DevOps」。ここにPaaSとIaaSの基盤をまとめてターンキーで利用できるEMC Native Hybrid Cloudが「最適」だと吉田氏は言う。
EMC Native Hybrid Cloudを活用すればアプリケーションのコードさえあれば、自動的に環境構築され数分後にはアクセス可能となるという。例えばRuby、PHP、Python、Node.jsなどで作成されたコードがあると、自動的に言語を判別し、アプリ実行環境を準備し、アプリを配置し、LBの配置まで自動的に行う。コンテナ技術を使うため立ち上げも削除も早い。
EMC WorldでEMCが特に強調した製品を挙げると、ネイティブハイブリッドクラウドに対応したハイパーコンバージドインフラの「VxRack 100 System with Neutrino Nodes」、PaaS環境まで統合した「Native Hybrid Cloud」、マネージドクラウドサービスの「Virtustream」。これからの世界、ネイティブハイブリッドクラウドでのアプリケーション開発プラットフォームを構成する要素となる。
「お客様がより使いやすいようにEMCはこれからオンプレもクラウドもどちらも使えるという幅広い選択肢を提供していきます。これらはデジタルトランスフォーメーションを支援する、すぐに使えるプラットフォームです」と強調して締めくくった。