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ITは本当に世の中の役に立っているのか?そもそもITなんていらないのではないか?……といった本質的な問いを胸に秘めながらも、第一線で活躍する二人のIT屋が、バズワードについて、Slerの幸せについて、データベースについて、クラウドについて、エンジニアのキャリアパスについておおいに反省したりしなかったり……エンタープライズITの現場の実情が立ち上る生々しい対話です。
Webでは読めない、神林飛志さん、井上誠一郎さんによる渾身のオリジナルまえがき、あとがき付き!
ぜひご反省ください!
神林さんがユーザー企業で内製していたころ
【前回までのあらすじ】
編集部 ちなみに、神林さんが、カスミで情報システムを刷新したっていうのはいくつぐらいのときだったんですか?
神林 あれは30くらいでしたよ。20後半から30頭くらい。もうめちゃめちゃ。結果としてひどい仕事にはなりましたけど。がんばりましたわ。
井上 内製ですか?
神林 内製です。完全内製です。まあ、大変でした。従業員も半分やめました。年寄りはもうほとんどやめましたね。
井上 内製にしたのは、まずパッケージという選択肢がそもそもなかったのか、選定したけど合わなかったのか……
神林 選定したけど合わなかったというか、なかったですね。その当時は、店舗に自律的に分散して処理ができるという、今よりまだ先を行っていた感じです。今より先に行くような仕組みを志向していたんです。まだ若かったので、このままでは会社が潰れるみたいな危機意識があった。だから情報システムをバーっと刷新して、ある程度人数が少なくても回るような仕組みにしなきゃいけないと。そのためには現状の技術じゃ無理で、新しい技術でやってかないといかんと、そのころ、出はじめのJavaで基幹系をやる。日本で2番目くらいと言われました。当時、業務系をJavaでやっているのは日産さんがやっているくらいで。で、まあ、やって動いたんだか動かないんだかよくわかんないっていう感じでした。
井上 そうなんですか。
神林 ええ、形は作っていけるところまではいったんですけど、まあ、途中で僕が別の事情でカスミを辞める羽目になってしまったので、動いてないのかな……動かすところまではいったのかな……くらいの感じですね。POSとか全部入れ替えて、だからまあ、3割くらいは動いたんじゃないですかね。まあ、物流も動かしたから。でも肝心の発注の最適化っていうのは難しかったですね。計算が終わらなかったですね。100店舗分のSKUで単純な機械学習を入れてっていうことをやって、次に何が来るか読むみたいな仕組みをやったんですけど、終わらなくて、まあ、その当時から分散的な志向ではあったんですけど、まあ、あれがあったんで、……で、何を聞きたいんでしたっけ?
編集部 いや、その前は公認会計士で、M&Aの営業でっていう話があったじゃないですか。
神林 ええ、やってました、やってました。
編集部 それから、ぽんってカスミに行って、いきなりパッケージを比較するとかですね、これはいけるとかいけないとか、そういう判断をするっていうのは、それ相当の勉強したっていうことでしょうか?
神林 ええとですね、要するにパッケージってベンダーが作るんですよ。ベンダーはユーザーじゃないんですよ。だから、わかんないんです、最終的に。だからどうやってパッケージが作られるかっていうと、たぶん、ワークスさんも同じだと思うんですけど、あるユーザーさんの業務をSIして、そいつをパッケージにしているんですよ。絶対そうなんですよ。そうすると暗黙の前提がそのまま入っちゃうんですけど、それがパッケージベンダーはわかんないんですね。こういうカルチャーだからこうなっているっていうその歴史的背景を含めてあるんですけど、パッケージの中にそいつがそのまま残っちゃうんですよ。それが合わないときにはもう何をどうしても合わないんですね。発想が違うっていう話になるんで。もう全面作りかえですねっていう議論になっちゃうんです。
だから、井上さんなんかはご存じだと思うんですけど、パッケージは3社SIやって初めてかろうじてちょっとできるかできないかくらいだって言われています。これはもう、パッケージをやっていたので、まあ、ワークスさんは成功しましたけど、だいたいそこまでやりきれないです。だから、どこまでが業界、あるいは業務について共通のもので、どこが固有かっていう切り分けは非常に難しくて。
井上 難しいですね。
神林 難しいんですよ。ユーザーですら難しいです。ここからここまでは業界共通だ、ここからここまでは俺たち固有だっていうのは、業界の人間だってわかってないです。ユーザー企業の中でもです。いろいろ、周りで情報交換をしているわけです。IT屋なんかよりよっぽど日本のユーザー企業のほうが業界団体ができているので、「なにやってんの」っていう情報交換をしょっちゅうやっているわけですよ。それですら、ここからここまでは共通で、ここからここまでは固有のものだってきれいに切れない。にもかかわらず、ユーザーでもない人が、1社でしか面倒見たことないのにパッケージなんか作れるわけがないんですよ。実際作れていないわけですよ。だから、比較したときには、これは、某社のだねってすぐわかるわけです、僕らからすると。
たとえば小売り流通業のパッケージがあるとするじゃないですか。これ、あの会社のやつだろ?見ただけでわかります。うちは違うから、そこは。そこだけは違うから、そこだけは作るか、そこは足していくの?みたいな話になってくると「んあ~」っていう風になるんで、スクラッチにするのか、変えるのか、みたいな話になってきて、そう意味でスクラッチにしたというのが、当時の事情。
編集部 そういうのって神林さんだけが、特別、キレッキレだからわかるという話なんですか。
井上 いや、ユーザー企業がスクラッチを選ぶロジックは基本的にはそれですよね。一般的なんですけど、だからこそ、日本でパッケージとかSaaSが流行らないという裏返しの部分ですね、まさに。
神林 だから腰を据えて、単一業種できっちりパッケージを作るというのは相当の覚悟が必要でそういうところが貯まりきる、でききるユーザーがつくまで、時間がかかってしまっているというのがあるんじゃないですかね。