IoTのビジネス価値とイノベーション創成のためのアプローチ
IoTの実導入が本格化している。「昨年までは勉強モードだったが、今年はIoT元年」とアイ・ティ・アールの甲元氏は言う。あらためてIoTの価値とイノベーション達成のためのアプローチを解説した。 IoT、「モノのインターネット」はあらゆるモノがインターネットに接続する世界。従来のM2M(Machine to Machine)とM2P(Machine to Person)を包含するコンセプトであり、技術の延長上にあるものの、従来のものとは「価値が違う」と甲元氏。「最重要なポイントはテクノロジやコストではなく、斬新なアイデアの発想とそれを実現する情熱」と強調した。
例えばクロアチアではセンサーを埋め込んだぬいぐるみを用いて、心拍数などの生体情報をスマホ経由でクラウドに収集する。子どもから無理なく生体情報を収集できるようにと、IT専門家ではない女性のアイデアが元になっている。創業からわずか数年で米国FDA認可を取得して、近々発売開始予定というスピード感。必要なサービスを必要な時に利用できるというクラウドの利点も生かした事例となる。
日本におけるIoT取組状況の調査からは導入済み、または前向きな回答が増えてきているのが分かる。興味深いのは企業のビジネス状況認識が「好調」であるほど導入が進んでおり、「不調」であるほど導入には消極的。今後IoT導入格差が生まれるとしたら、ビジネス状況の影響もありそうだ。
IoT実現の構成要素となる技術やサービスを甲元氏は一通り挙げた。クラウド、IoT向けクラウドサービス、スマートデバイス、極小/極薄センサー、ワイヤレス・センサー・ネットワーク、近距離無線通信、ユビキタスモジュール、IoT向けSoC(チップ)、シングルボードコンピュータ、環境発電、機械学習など。
甲元氏はIoTの位置づけとして、既存ビジネスを強化するものと、新しいビジネスイノベーションを起こすものと2つあるという。前者は取得するデータの精度と量を向上させることにより、企業のマネジメントや提供するサービスのレベル向上が見込める。例えば天気予報の精度向上は収集できるデータ量向上が大きく貢献していると言える。ほかにも公共インフラの管理、交通機関ではコスト削減ほか顧客満足度向上にも役立てられている。
後者となるIoTによるビジネスイノベーションでは、ドローンを使った警備サービス、ウシに加速度計をつけて疾病早期発見、洗濯機に洗剤残量センサーをつけて自動的に補充分を発注するなど、多岐にわたり新サービスが登場してきている。
なかでも注目すべきは製造業。IoTを活用して製品販売から機能提供(サービス化)へとビジネスモデルを変革している。顧客はオンデマンドで機能追加や停止ができて投資の無駄がなくなり、メーカーは製品がメーカーの所有物になるため予防保全でコスト削減や新規開発に役立てられる。
IoTによるイノベーションについて甲元氏は「モノやプロセスから入るのではなく、データ収集や開示から得られる価値のユニークさをベースに検討するべきです」とポイントを指摘した。システムアーキテクチャはスケーラビリティや構成要素は入れ替え可能とすること。スピード感を高めるためには「小さいチームで一気に進める。経営の意思決定は最終段階など最小限にする」とも指摘した。
最後に甲元氏は「IoTの取組はまだ始まったばかり。どの企業でも大きなビジネスチャンスがある。ビジネス強化を考えるなら事実データをより多く収集し経営に役立てること。イノベーションならアイデアとスピードが肝。スモールスタートで早く始めること」とアドバイスした。
ウフル、NTTデータ、データビークルがIoT活用ソリューションを紹介
真のオープンイノベーションで実践するIoTビジネス成功事例――ウフル
ウフルの杉山氏は「IoT/M2Mサービス構築に必要な知見を上流から下流まで一気通貫で提供します」と自社の特徴を表した。IoT活用でビジネスにインパクトをもたらす方法を協創する形でコンサルティングを行うところから、PoC、導入支援、開発などを経てマーケティング施策を支援するところまで行う。IoTの新規事業構想では「全てが繋がる世界観をベースとしたコアバリュー発掘とパートナリングが鍵を握ります」と言う。
ウフルではオープンコラボレーションを重視しており「IoTパートナーコミュニティ」を立ち上げたり、日本OMGが設立したIoT専門組織では事務局を務めたりしている。製造業や総務省などの事例を通じて、独自開発したデータ連携プラットフォーム「enebular」も示した。NTTコミュニケーションズの「グローバルクラウドIoTテストベッド」や、さくらインターネットの「IoTプラットフォーム」でも採用されており、「世界一のIoTオフィスを構築していきます」と意気込みを見せた。
IoT基盤「ANYSENSE」の概要とソリューション――NTTデータ
主に製造業におけるIoTはM2M、機械監視や制御、プラント監視や制御、これら3つの領域に分けられる。M2Mと機械監視や制御の間には「計装の壁」があり、土井氏は「NTTデータのIoT基盤『ANYSENSE』はこの計装の壁を越えます」と話す。計装業界からすると、機械とPLC(制御装置)と現場サーバーが中心で、IoTは現場サーバーのバックアップという位置づけとなりがち。しかしNTTデータはITと計装を「ANYSENSE」で融合させ、解析ソリューションを提供する。
解析システムでポイントとなるのがデータをネットワーク的に機械監視用と解析用と分離するところ。現場のデバイスゲートウェイと、クラウドで解析に使う計算機を協調して制御することでリアルタイムで高度な処理を実現している。故障予知の事例では、自家発電用ディーゼルエンジンから収集した音を機械学習し、異音から故障検知ができるようにしている。ほかにも自動車工場の研磨工程で用いる砥石の性能比較に用いるなど、データ解析の可能性を示した。
「モノ」から集めた大量データ。さてどうしたモノか?の解決例――データビークル
ビッグデータ時代はデータプロセス期、データビジュアライズ期があり、今はデータサイエンス期に突入したところだという。実際にビッグデータ分析に着手してみても、既知の確認となる「見える化で見えただけ」、気づきはあれど「打ち手が思いつかない(何をしたらいいのか分からない)」、データを細かく収集したらサーバーリソースがパンクして「お金が際限なくかかる」などの事態に陥りがち。
油野氏は「データが集まったら何かが見えるだろうという発想はやめましょう。逆転の発想が解決します。何を見るための分析かを考えることが大事です」と指摘する。データ分析の前に目標や経営課題を明確にして、解析単位を決め、説明変数を探すというアプローチが重要となる(リサーチデザインとも言う)。データビークルでは統計学を駆使したデータ分析ツール「Data Diver」、2016年5月からはデータサイエンス専用変換ツール「Data Ferry」を提供している。
工場・製品・重要インフラの安全を守るIoTセキュリティ
日本国内のIoT市場は2020年までに7000億円超という予測もある(MM総研調査)。あらゆる産業分野でIoT活用が進み、中でもヘルスケアと製造業が有望市場と言われている。ソリューションでは重要インフラの安全や防災、業務の効率化、人間の見守りなどで期待が高まっている。ドイツでは「Industry 4.0」と国を挙げて産官学の共同プロジェクトとしてイノベーションリーダーと輸出大国の地位強化を目指している。
そうしたなかIoTではセキュリティが重要な課題として掲げられている。すでにIoT機器を対象としたサイバー攻撃は増加しており、産業や社会インフラへの対策が急務である。セキュリティリスクは資産価値と脅威発生確率と脆弱性の掛け合わせで決まるとされており、あらゆるモノがつながるIoTでは資産価値が巨額になるため障害発生時の責任は重大となる。
境野氏は「IoTではIoTならではの技術的対策が求められます。予防が困難なため、早期発見と早期復旧が重要です。責任の境界が不明確となりがちなので、デバイスから経由する通信回線を含めクラウドを相互連携させて一元管理できる仕組みが必要です」と指摘する。
実際に近年のサイバー攻撃では重要な工場や電力施設も標的となっており、手口が高度化・巧妙化している。社会的に影響力が大きいとされる制御システムのセキュリティ対策は近年着々と進められており、政府からサイバーセキュリティ戦略やガイドラインも発表されてきている。情報システムのセキュリティでは最優先されるのは秘匿性とされるが、産業用IoTシステムでは稼働を止めないこと(可用性)になる。ところがPLC(制御装置)は通信方式が多数乱立して管理が困難という課題がある。IoTならではの対策が必要になる。
制御システムに関するセキュリティではIEC62443を中心に国際標準規格化が進んできており、システム調達要件に入れる動きも進んでいるところだ。IEC62443は全てのレイヤとプレイヤーを包含しており、これをベースとした制御システムセキュリティ認証が各種ある。例えば管理能力のCSMS認証、開発工程のSDLA認証、アセスメントのSSA認証、デバイスのSDSA認証など。IoTサービスに関わるなら必見だ。
重要インフラのIoTで安全性確保の要となるのがセキュアなネットワーク(IP-VPN)とプライベートクラウド。例えば製造現場のネットワークなら、データセンターには堅牢性や拡張性、通信ネットワークのプロトコルには汎用(はんよう)性や柔軟性を求めつつセキュリティも重要で、海外の拠点もセキュアに接続できるグローバルさも必要になる。境野氏は「NTTコミュニケーションズのプライベートクラウドではIP-VPNとクラウドをワンストップで提供します。帯域保証も可能で海外拠点もシームレスに接続します」と強みを強調した。
NTTコミュニケーションズではほかにも「IoTトライアルパック」提供している。IoT本格導入前に「データの見える化」を手早くセキュアに実現できるようにする。現時点では工場設備向けに「Connected Factory」、製品管理向けに「Connected Product」、車両管理向けに「Connected Vehicle」などがあり、今後も追加が予定されている。さらに2016年5月からは「IoTプラットフォームFactoryパッケージ」が商用提供開始となり、データ収集と分析プラットフォームがグローバル規模でワンストップ提供されるようになった。
2016年2月からはIoT技術検証環境「IoTテストベッド」にてIoTサービスの信頼性、安全性、経済性、効率性を高める技術検証環境の運用も行われており、精力的に技術研さんが進んでいる。最後に境野氏は「IoTを活用したビジネスを推進していく協業パートナー企業を募集しています」と募集を促して締めくくりとした。