OSSの活用がビジネスイノベーションの鍵
ICT投資予算がなかなか増えない一方、企業が取り扱うデータは刻々と増え続けている。また、データ分析や機械学習等への期待の高まりもあり、データベースに関する要件が増えている。その上、ICT部門にはビジネスのイノベーションも求められる。そんな状況下で効果を発揮するのが、OSS(オープンソースソフトウェア)だという。
「これまでOSSの活用目的は、主にコストを削減するためでしたが、今後はイノベーションのためにOSSを活用すべきという機運が高まっています」(佐野氏)
OSS製品の中でも、富士通が推進しているのがリレーショナル・データベースのPostgreSQLだ。PostgreSQLは開発体制もフラットで新しい技術を取り込もうというコミュニティの意向が比較的ダイレクトに反映されている。
ビジネスイノベーションに活用するOSSデータベースとして、オープンなコミュニティで発展してきたPostgreSQLが最適な理由は何だろう。
1つ目には、コミュニティ活動が盛んで、新機能、新技術の積極的な開発が行われていることが挙げられる。そして、2つ目は、機能面でも性能面でも商用製品に見劣りしないことが挙げられる。
PostgreSQLは様々なエンハンスにより、そのポテンシャルを高めている。富士通では、13年前からPostgreSQLの機能開発に取り組んできた。かつてあったバキューム処理による性能低下問題もバージョン8.1ですでに解消しており、ストリーミング・レプリケーション機能などで信頼性も向上、さらにCPUスケール対応など性能面もかなり向上している。「いよいよビジネスで本格的に使えるデータベースになっています」と佐野氏は語る。
データ連携にPostgreSQLのオープン性を活用
進化したPostgreSQLを既存の商用データベースの移行先として捉えるのではなく、ビジネスイノベーションのプラットフォームとして活用すべきだと佐野氏はいう。
「これまでのICTの世界では、バックオフィスシステムのデータと新しいICTのデータ間に隔たりがありました。お客様には従来のシステムを活かしつつ、ビジネスイノベーションのために新しいシステムとの連携も実現させたいというニーズがあるにもかかわらず、これがなかなか進まないという課題がありました。この課題に対する富士通の解決策が『データのオープン化によるシームレスな連携』です」(佐野氏)
たとえば、これまで顧客がものを「買った」情報のみ入手していた流通・小売りの世界を想像してほしい。今後IoTのソリューションが台頭することで、従来の「買った」情報に加えて、商品を手には取ったけれど購入には至らなかった「買わなかった情報」の他、店舗やECサイトなど複数チャネルから得られるデータも活用できるようになり、売り上げ向上につながる新たな知見を得られるはずだ。
このような仕組みを支えるデータベースには、既存システムとIoTのソリューションにより新しく構築したシステムとのデータ連携が必要だ。とはいえバックエンド側はシステムごとに使用しているデータベースもデータ形式も異なることが多い。大量のデータを連携させる際には、データ形式を合わせるための変換作業に手間も時間も掛かってしまう。
そこで活躍するのが、PostgreSQLである。バックエンドのレガシーなデータを格納するデータベースを、順次オープンなPostgreSQLに移行することで、バックエンドのシステムがオープンなインターフェイスを持つことになり、新しいシステムからのシームレスなアクセスを可能にする。
「バッグエンドのシステムがオープンなインターフェイスを持ち、新しいシステムからもシームレスにアクセスできるようになることで、OSSデータベースを起点とした新たなデータ活用基盤ができあがります。オープンなデータ活用基盤ができれば、これまで連携できていなかったデータベースとつながることができ、データの活用領域も広がる。これによりPostgreSQLの利用も広がり、エンジニアも増えるという相乗効果も生まれます」(佐野氏)
このような取り組みを推進する富士通は、実は2003年からSRA OSS, Inc. と共にPowerGress Plusを開発してきたという。
そして2012年、富士通は自社のデータベース製品ラインナップにPostgreSQLベースの「FUJITSU Software Symfoware Server(PostgreSQL)」[以下、Symfoware Server(PostgreSQL)]を加えた。富士通が長年培ってきた、企業がビジネスで使うデータベースに必要となるポイントを、PostgreSQLに補完している本製品の適用により、企業内のさまざまなシーンでPostgreSQLを安心して使えるようになるのだ。
段階的なPostgreSQL移行によるメリット
続いて、佐野氏によるSymfoware Server (PostgreSQL)活用事例が紹介された。ある企業では、新しいシステムでPostgreSQLを利用する事は比較的容易だったが、既存の商用データベースの移行やメインフレームとの連携がなかなか進まず、新しいシステムと既存システムとの間でデータを組み合わせて活用できないという課題があった。また、この企業は、商用データベースのライセンスコストを下げたいとの意向もあった。
「これらの課題を解決するために、こちらのお客様では全システムを一度にPostgreSQLに置き換えるのではなく、インパクトの少ないところから段階的に移行を進めることにしました。PostgreSQLの機能である、他のデータベースへのアクセスを可能にするFDW(Foreign Data Wrapper)やマテリアライズドビューを活用することで、既存業務に影響を及ぼすことなく効率的なアクセスが可能となる他、段階的な移行により、技術者も徐々にPostgreSQLのスキルを身に付けられるようになります」(佐野氏)
もう1つ紹介されたのが、PostgreSQLへの移行を起点にイノベーションを加速した事例だ。多くの企業ではデータベースシステムの災害対策を実現したくても、冗長化などの対策はコストが高くなかなか手が出せないのが実情だ。また仮に冗長化できたとしても、災害時にシステムをリカバリできる技術者を拠点ごとに配置しなければならないという新たな課題も生じてしまう。
これらの課題を解決するために、Symfoware Server (PostgreSQL)のストリーミング・レプリケーション機能を活用したデータベースの二重化を実施。これにより、全拠点のシステムの冗長化を実現した。この方法ならば、障害時にもリカバリ作業なくデータベースの接続先を切り替えるだけでシステムを復旧できる。さらに同製品では待機系サーバーのライセンスは不要のため、ライセンスコストも大幅に抑えられる。